芸能人や有名スポーツ選手、経営者などの富裕層は大型高級車に乗っていることが多く、「大きな車=成功者の証」というイメージが世間で広く認識されています。また、高い安全性能や趣味・嗜好を目的として大型高級車を保有したり、「大きい車に乗っている人は運転が上手い」と称賛されることもしばしばあります。
しかし、そのような大きな車が、実は周囲の人々や社会にどれほどの危険と迷惑をもたらしているかについて、車を所有する当事者は認識していないのではないでしょうか。
さらには、狭い道を大きな車で走ることが法令違反となりうる場合もあります。
本記事では、大きな車が社会に与える様々な悪影響のうち「幅」と「長さ」に焦点を当て、対策とあわせて整理します。
車幅の拡大が招く危険と迷惑
日本の道路幅に合わせて「5ナンバーサイズ」ができた
かつて日本の自動車税制は車幅1.7m以下(いわゆる5ナンバーサイズ)を優遇しており、クラウンなどの高級車を含むほぼ全ての乗用車がその範囲に収まっていました。これは当時の日本の道路や駐車場の事情に合わせ、安全や利便性を考慮して作られた基準だったと考えられます。
ところが1989年、アメリカの圧力によって車幅規制が撤廃されると、歯止めはなくなりました(上限2.5mまで)。
「室内が広くて格好いい」という広告に購入者は引き寄せられ、周囲への危険や迷惑まで考えが及ばないまま大型車を選ぶようになり、メーカーもその需要に応えてさらに大きな車を作り続けるという悪循環が始まりました。
その結果、乗用車の車幅は年々拡大し続けています。欧州においても、新車の車幅平均が毎年0.5cmずつ拡大し続けているとの報道があります(2024年ガーディアン紙)。
一方、一般道や駐車場は、一部の新設箇所を除き、何十年も前から変わっていません。
その結果、多くの道路や駐車場が幅広の車で占領され、歩行者や自転車、バイク、他の車のスペースを奪い、安全性や利便性が低下しています。
「30センチの差」が歩行者スペースを奪う
富裕層に人気のベンツGクラスやランドクルーザーなどの車幅は約2.0mあり、5ナンバーサイズ(1.7m)より約30cm大きくなっています。日本で2番目に売れている1車であるアルファード/ヴェルファイアでさえ1.85mで、15cm大きいです。
| 車種 | 車幅 | 5ナンバーとの差 |
|---|---|---|
| 軽自動車 | 1.48m | ー22cm |
| 5ナンバー車 | 1.70m | 基準 |
| アルファード | 1.85m | +15cm |
| ベンツG・ランクル | 約2.0m | +30cm |
こうした幅広の車が狭い道を通ると、その分だけ歩行者や自転車の通行スペースが減少します。2台すれ違う場面では影響は倍になり、合計30〜60cmもの道幅が余計に消費されます。
60cmは成人1人分の肩幅以上であり、実質的に歩行者や自転車の通行スペースが消えることを意味します。

一方、5ナンバーサイズより20cm以上、大型SUVよりも約50cmも小さい、車幅1.48mの軽自動車が乗用車販売の約4割も占めていることは、小さい車幅が多くの人に受け入れられていることを示しています。
狭い道に幅広の車が通行すると、法令違反になりうる
幅広の車が狭い道路を通行することで生じる危険を防ぐため、車両制限令第五条では道路幅に応じた車幅の上限が定められています。
例えば市街地の歩道のない双方向通行の道路では、道路の幅から1.5m引いた値の2分の1が通行できる車幅上限になっています2。
言い換えれば、車幅2台分に対して1.5mの余裕が確保されていることになりますが、サイドミラー幅や車間・壁間の空間を考慮すると、実際には車のすれ違い時でも片側60cm程度(人の肩幅+α)が残ることになります。

歩行者が多い道路・時間帯については、さらに1mの余裕が加算され、すれ違い時でも肩幅3人分(約1.6m)、路肩両側ではそれぞれ約80cmの空間が確保されることになります。
つまり、狭い道路で車がすれ違う場合に歩行者が立ち止まって避けるという、よく見られる光景は、法令に照らせば明らかな違反状態です。
しかしながら、この規制に対応した規制標識はごく一部にしか設置されておらず、取り締まりが行われている話も聞いたことがありせん。
危険性が認識されて法令が定められているのにもかかわらず、道路管理者も警察もその役割を果たしておらず、無法地帯にさせていることが、大きな車を増加させた主要因であると言えるのではないでしょうか。

幅広の車が生み出す様々な問題
- 歩行者・自転車の通行スペース縮小と事故リスク増大。子どもや自転車が飛び出した際に回避できない可能性も増える。
- 狭い道でなくても自転車やバイクを追い越す際の側方距離が縮まり、接触の危険性が高まる。SUVは一般乗用車より側方距離が平均37cmも短いとの調査結果もある(Applied Sciences誌、2023年1月)。
- 車が渋滞時に、歩行者や自転車、バイクが側方を通行することが困難になる。
- 対向車を大きく避けさせたり、右折待ち車の左側通過をしにくくする。路上駐車時も後続車や自転車の避ける量が大きくなる。渋滞の原因にも。
- 駐車場で隣の車との間隔が狭まり、乗降に支障をきたす。
- 広い道路・駐車場が必要となり、社会インフラのコストが上昇する。



近年は、電動キックボードなどの特定原付の普及や、自転車の取り締まり厳格化によって、車道を走行する低速車が大幅に増えていることから、幅広の車による危険性がいっそう高まっています。
車体長さの増大が招く問題
車体の長さについても、近年、明らかに長くなっています。
1970年代からのベストセラーであったカローラの当初の全長は約4.0m、新車販売シェア4割の軽自動車は約3.7mです。一方、アルファードやランドクルーザー300などは約5.0mと、1m以上長い車が多く走っています。
なお、一般的な宅配用小型トラックの長さは4.7mで、大型乗用車はそれよりも長いのです。
車体が長くなることにより、小回りが利かなくなります。
全長約4.0mのヤリスの最小回転半径(外側前タイヤ中心)が4.8mに対して、アルファードは5.9mで1.1mも大きく、Uターン時はその2倍、ボディ先端ではさらに大きくなります。
これにより、以下の問題が発生しています。
- 旋回時の占有面積・内輪差が大きくなり、周囲の歩行者・自転車・車との衝突リスクが高まるする。
- 狭い角や駐車場で切り返し(後退)・あおりハンドル(最初の逆操舵)が増え、周囲の交通の障害、渋滞の原因となる。
転回時も対向車や横断歩行者との交錯リスク増。 - 道路占有長が増大し、渋滞が長くなる。
- 駐車場でより広いスペースや通路幅が必要になる。通路や道路にはみ出していることも。

大きい車ほど乗員の安全性は高いが…
大きな車に乗る理由として、乗員の安全性が高いことがよく挙げられます。確かに、車同士の衝突時においては、大きく重い車が有利な傾向があります。
しかし、このメリットは、物理の法則上、相手の車の被害が増えることで得られるものであり、それによって、全体の重症・死者数が増加する可能性もあります。
そして、前述の通り、車が大きいことは周りの歩行者や自転車などにも多大な迷惑と危険をもたらします。
つまり、他人を犠牲にして自分を守るということであり、道徳的に許されることではありません。
もちろん、大人数や大きな荷物を運ぶ必要があればやむを得ないですが、8人乗れるノア/ヴォクシーもほぼ5ナンバーサイズであり、大きな荷物は運送業者に頼めば良い話です。
つまり、合理的な理由が無いにもかかわらず、利己的な理由だけで、危険で迷惑な大きい車が選ばれているのです。
対策
幅広車の通行制限——法令の適用とボラード設置、取り締まり
大きい車でも、十分に広い道路を走っている限りは必ずしも危険でも迷惑でもありません。問題が生じるのは道路が狭い場合に限られるため、道路幅に応じた車幅の通行制限が有効です。
前述の通り、車幅を制限する法令があるため、それを広く適用し遵守させるだけで状況は大きく改善します。
実効性を確保する手段として、ボラード(ポール)による通行幅の制限が有効です。現状でもごく稀に設置してある場所があります。
取り外しや昇降が可能なボラードを採用すれば、緊急車両の通行にも対応できます。

また、警察による取り締まり強化も考えられます。
海外では、監視カメラによる各種交通違反の自動取り締まりや自動反則金請求が行われており、これを日本でも導入すれば、実効性が格段に高まります。つまり、読み取った車両ナンバーから登録された車種と車幅を導き出し、違反を判定します。
なお、日本での実現はハードルが高いと言われていますが、人命を最優先に考えれば、海外同様に実施することは当然可能だと言えます。
一方通行化
上記の法令を厳格に適用することは必要ですが、それによって、ほとんどの車が通行できなくなる狭い道路もあります。
この場合には、道路を一方通行に規制することが考えられます。
市街地における一方通行の道路を通行できる車幅上限は、道路幅-1.5mであり、ほとんどの車が通行可能になります。
一方通行によって不便になる場合もありますが、不便だからといって、危険性や法令違反が許されるわけではありません。
なお、一方通行化は歩行者横断時の安全性にも大きく貢献すると共に、交差点の信号除去も含めて渋滞抑制にもつながるため、海外では積極的に進められている都市もあります。
交差点の無信号化などの詳細については、以下を参照ください。
通行を居住者のみに限定
その地域の居住者以外は通行禁止にすることも考えられます。
これにより、やむを得ず大きな車を通行させる必要があっても、通行量を大きく減らすことができるため、歩行者などの安全性が向上します。

車体サイズに応じた税制
かつての日本では、幅1.7m・長さ4.7mの5ナンバーサイズを超える場合に自動車税が高く設定されており、それによって多くの車の大きさが抑制されていました。
社会へ与えている悪影響を原因者が負担するという公平性の観点からも、車の大きさに応じた税制は合理的です。
ただし、5ナンバーサイズが必ずしも良いわけではなく、特定の数値で区切ることは弊害も生じます(軽自動車のガラパゴス化など)。より望ましいのは、社会への悪影響コストを見積もり、1cm単位で税額を設定する累進制です。
車幅が広いことによる社会的費用については、仮定による幅は大きいと思われるものの、1cm1年間あたり2,000円程度と言われており、幅2mの車は1.7mの車に対して、年間6万円程度増加させることが妥当です(幅以外は同一の場合)。
また、安全・環境性能、道路損傷(重量)、公共性なども税額に考慮すべきであるため、それらの社会への悪影響についても同様に見積もり、税額に加算することがより公平です。
特に、重い車は社会的コストが非常に大きいと言われているため、実際の悪影響コストに合わせて高い税額にすることが妥当であり、重さと相関の高い大きい車の抑制効果も高まります。
道路損傷については重量の4乗、コンクリート橋梁部では12乗に比例するとされており、例えば重量が2倍(軽自動車に対する大型SUVなど)になれば道路損傷は16倍、コンクリート橋梁では4,000倍になります。
さらに、衝突時の相手へのダメージも重量に比例するため、重い車は非常に大きな社会的コストが発生しているのです。
一方、車を所有していても走らなければ悪影響は発生しないため、車検間隔の走行距離に単位税率を掛けて算出する走行距離課税への転換が、より公平な原因者負担を実現できます。
これによって、車の使い分けによる大きな車の走行抑制、相乗りなどの効率化や自転車・公共交通への転換、渋滞抑制、CO2削減も期待できます。
また、大きく重い車や環境・安全性の低い古い車を所有している場合でも、趣味目的の所有などで走行距離が少なければ税負担は抑えられるため、反発は少ないと考えられます。
現状は、大きな車でたくさん走る人が生じさせている桁違いに高い社会的コストを、小さい車をたまにしか乗らない人が実質的に肩代わりしている構造です。上記の変更は、この不公平を是正することに繋がります。
走行距離税などの詳細は下記に記載していますので、ご参照ください。
駐車場の入場制限、料金の適正化
駐車場においても、スペースに余裕が少ない場所では大きな車の入場を制限することが必要です。
また、自動車税と同様に、大きく重い車は駐車場の建設・維持費を押し上げ、他利用者の通行の迷惑になるため、その費用に応じた駐車料金にすることも公平性の観点からも妥当です。
パリ市などでは、車両ナンバーをカメラで読み取り、公的なデータベースを参照して、重量の大きい乗用車の路上駐車料金を自動的に高くする施策を行っています。民間の駐車場でも、技術的には実現可能です。
なお、駐車料金が実質無料となっている施設が現状では非常に多く、その場合は料金に差を付けることができません。
しかし、駐車料金が無料であっても、実際は駐車料金が商品価格などに上乗せされていて、公共交通や徒歩・自転車での来場者も含めて負担させられています。
これは非常に不公平な状態であるうえ、車依存を助長し公共交通や自転車の利用を抑制していることになるため、環境保護や弱者救済の観点において、企業のコンプライアンスの観点からも問題があります。
駐車料金を商品価格から分離して徴収させることが必要があり、それによって大きさや重量による差を正しく設けることができるようになります。
無料駐車場の問題についての詳細は下記に記載していますので、ご参照ください。
まとめ:成功者として、その選択は正しいか
格好いい車に乗りたい、目立ちたい、尊敬されたい——そうした軽い気持ちで選んだ大型車が、結果として見知らぬ誰かの安全を脅かし、迷惑をかけているとしたら、それは「成功者らしい選択」と言えるのでしょうか。
謙虚さ、慎ましさ、他者への配慮——日本人が武士道にも通ずる美徳として大切にしてきた価値観が、忘れ去られています。
もちろん、巧みな広告によって購入を誘導された人々全員に悪影響を自覚させることは現実的ではありません。また、広い道をたまにしか走らない人を責める理由もありません。
だからこそ、危険な場所での通行制限と、公平な経済的インセンティブによる行動変容が不可欠です。
そもそも、危険防止のためにある規制を遵守させること、社会への悪影響に応じた税制・駐車料金にすることは至極当然のことです。そして個人としても、自分の車の選択が社会に何をもたらしているかを、改めて考えてみる必要があるのではないでしょうか。



