多くの人が憧れる高級大型車。外観が堂々として威厳があり、室内は広く静かで乗り心地も良く、衝突時の乗員保護性能も高い。なかでも人気なのが、高い積載性、見晴らしの良さなどの利点を併せ持つ大型ミニバンや、悪路走破性も兼ね備えるSUVだ。
しかしこれらの車の形状は、人にぶつかり、押し倒し、踏みつぶすのに適している、つまり周囲の人を死傷させる危険性が高いということは、あまり知られていない。
本記事では、SUVや大型ミニバンの車体形状の危険性について、解説する。
なお、その中の車体が大きいことによる危険性については、「大型車・SUVが街を危険にする——軽視されている社会的悪影響と、法令違反の可能性」を参照されたい。
死角が大きい
ボンネットや窓の位置が高いことで、低い物が見えない
大型のSUVやミニバンは、ボンネット(フード)や窓の位置が高い。その結果、車前方や助手席側の死角が従来の一般的な車種より大きくなり、背の低い障害物を見落として轢いてしまう危険性が高まる。
自転車に乗った子ども、幼児、車椅子利用者、転倒した人など、高さが低い障害物が急に現れる状況は様々あり、横断歩道上や駐車場などで、実際にひき殺してしまった事故がしばしば発生している。


また、ボンネットが長い、車幅が広い、運転者の身長が低い(シート座面を上げていない)、背もたれを倒している、シート位置が下がっている場合などは、死角はさらに拡大する。つまり、たまに見かける、ふんぞり返って大型SUVやミニバンを運転している人は、非常に危険だ。
改造で車高を上げている場合も、より一層危険になる。
視界の法規制に抜け穴がある
もちろん、視界に関する安全基準があり、近年の車は当然準拠しているが、その実効性には疑問が残る。
車体のすぐ前や横についての視界の法規1では、車体から30cm離れた高さ1mの物体を運転手が認知できる必要があるが、直接見えなくても、カメラや超音波ソナーで代替することが認められている。
ところが、カメラ画像を常時表示することは法規で求められておらず、運転手が手動でONにしなければ映らない設定にできるため、実際はあまり使われていないと思われる。また、カメラ画面がカーナビやルームミラーなど進行方向とはやや異なる場所にあるために、障害物が映っていても見落とす可能性が直視より高い。移動物自動検知機能がある場合も、運転手がカメラ画像をONにしない限り作動しないことが一般的である。

超音波ソナーも検知範囲が限られることや、形状が認識できないこと、障害物の位置を認識するために画面を確認する必要があることなどにより、飛び出してくる子供や倒れている人などを認知し回避動作を行うことが、直接目視に比べて難しいと言える。
カメラでなく、直前直左鏡、いわゆるキノコミラーの設置によっても、直近の視界を確保することも認められているが、鏡面が非常に小さく、ほとんど見えないという声も多い。なお、大型トラックでは法規制で大きなミラーになっているのに、乗用車は規制がほぼ無く、形式的に付けているだけとも言われている。

前方の離れた場所についての視界についても、車体から2.3m先にある高さ1mの物体を直接目視できることが法規2で定められている。
しかし小さい子供や転倒した人は1mよりはるかに低く、従来の車が見える範囲に対して法規が緩過ぎる。自動ブレーキも、倒れていたりしゃがんでいたりする人を検知できないことが多い。
なお、トラックやバスでは直接視界の規制が近年強化されている3のに、乗用車は野放しのままである。
衝突時に押し倒される
ボンネット前端が高いと、押し倒され轢かれる
従来の車のようにボンネット前端(フロントエンド)が低い場合、人と衝突すると最初に脚部にぶつかり、身体がボンネットやフロントガラスの上に乗り上げる形になりやすい。歩行者保護の法規も、この前提でボンネットやフロントガラスへの衝撃を基準にしており、その範囲で衝撃吸収の工夫が行われている(ポップアップフード、エアバッグなど)。

ところが大型SUVなどはボンネット前端の高さが高いため、衝突時に胴体へ直撃し、身体が前方に押し倒されるため、ボンネットやフロントガラスには倒れない。
そして路面に叩き付けられ、さらに車に轢かれる可能性が高い4。特に背が低い人はその傾向が高いと考えられる。
実際、車体前端の高さが平均より10cm高い車に歩行者や自転車が衝突された場合、致命傷を負うリスクは30%増加するという調査報告5がある。
この危険性は現在の法規では考慮されていない。

それどころか、法規試験におけるボンネット部の衝撃吸収性能を上げる目的で、エンジンなど硬い部品との間隔を広げるためにボンネットを高くする設計が増えている。
実態に合わない規制が、かえって死傷者を増やす方向に作用していると考えられる。

ボンネット高さは上昇し続けている
このように高いボンネットが危険だと以前より言われているにも関わらず、欧州では新車の平均ボンネット高さが年間0.5cmずつ上昇6しており、日本でも同様だと思われる。
このため、ボンネット高さの規制が早急に求められている。
タイヤの露出が大きいと踏みつぶされる

SUVは、凸凹したオフロードで障害物を乗り越えやすくするため、また見た目の格好良さのために、車高(車体と地面の間隔)を上げたり、タイヤを大きくしたり、バンパーを小さくしてタイヤの露出を増やしたり、バンパー下部を斜めに切り上げていることが多い。これにより、歩行者や自転車との衝突時に身体が車体やタイヤの下に巻き込まれ、踏みつぶされやすくなり、被害の程度が悪化すると考えられる。
段差を乗り越えやすいオフロード車は、人も「乗り越えやすい」ということだ。
車両の側面についても同様で、タイヤやホイールハウスが大きいほど、また車高が高いほど、右左折時や人・自転車が転倒して接触した場合に、タイヤに巻き込まれたり車体の下に入って轢かれ、重症化するリスクが高まる。
一方、車高が低く車体前部の大部分がカバーされていて、タイヤも小さい従来型の一般的な車であれば、しゃがんでいたり身長が低い人でも、横や上方向に跳ね飛ばされる可能性が高く、車体の下に巻き込まれたり踏みつぶされるリスクは低くなる。
これらの危険性についても、法規制はほぼ手つかずの状態だ。


自動ブレーキでも防げない
自動ブレーキがもっと進化したり自動運転になれば、これらの危険性は問題にならないと考える人もいる。
しかし、いくら車が進化しても、車の直前や側面に人が飛び出してくれば、避けることは不可能である。
よって、人や自転車などとの衝突時の安全性を従来の車より悪化させないことが最低限必要である。
対策
上記のように危険性が高いSUVや大型ミニバンなどについて、従来の車と同等の安全性を確保するためには、以下の対応が考えられる。
法規制を厳格化する
- 視界基準の厳格化:死角を映すカメラ映像を少なくとも低速時は常時表示させる(つまり専用モニター設置が必須)。あるいは前方の直接視界の下限を従来車並みに下げる。
- 歩行者保護性能評価に実際の状況を反映:衝突後の身体の挙動や低身長者などを反映した上で、従来車同等の性能を求める。ボンネット前端高さの規制もEUなどで検討されている7。
- 側面の巻き込み防止規制:地面と車体の隙間やタイヤ露出面積を従来車同等に制限する。
- オフロード仕様の可変化:バンパーを縮小してタイヤを露出させたりする必要がある場合は可変式にして、車のシステム起動時に自動的に安全な状態へ戻す仕組みなどが考えられる。
歩行者保護のための工夫は、実は目新しいものではない。
明治時代の路面電車には救護網が装備され、歩行者衝突時の衝撃を緩和するエアバッグや大型のタイヤフェンダーも以前より開発されている。現在の路線バスやアメリカのスクールバスには巻き込み防止用のタイヤカバーが装備されているものもある。
つまり、昔から危険性は認識され、種々の対策が検討されてきたが、現状は命より格好良さや利便性などが優先されていると言える。





古い車に対する対策
上記の法規制強化を行ったとしても、新しい法規(保安基準)は基本的に新しく製造される車にしか適用されないため、古い車には効果がない。現状でも規制を嫌ってあえて古い車を選び、さらに危険性を高める改造を施す人もいる。また、古い車は「レトロでお洒落」「物を大切にしていて偉い」といった好意的なイメージも強くあり、それらが死傷者を増やしている一因になっている。

これらの対策として、以下が考えられる。
- 税・保険料の適正化:自動車税や自動車保険に安全性能に応じた差をつけると共に、走行距離基準の負担として、外部不経済(社会への悪影響費用)を公正に反映させる(危険な車でたくさん走る人ほど高く、安全な車で少ししか走らない人は安くする)。
車費用の従量化については、「公共交通復活のためには、車固定費を可能な限り従量制にすべき」を参照されたい。 - 古い車への基準適用:費用負担を上げるだけではお金持ちに効果が無いため、後付け装置などにより対応可能な安全基準については古い車にも適用する。
- 周囲や搭乗者への掲示:最新法規を満たせない車について、危険性が高いことを周囲や搭乗者へ認識させるため、車体や車内へ警告ラベルやステッカーの貼り付けを義務付けたり、ナンバープレートの色を変えるなどが考えられる。
- 運行期間の制限:シートベルトが無いなど危険性が特に高い車(クラシックカーなど)は、臨時運行許可(仮ナンバー)のような形で、運行経路・期間を最小限に制限する。
まとめ
多くの人が憧れる高級大型車やSUV、大型ミニバン。しかし、以下の点で危険性が高いことを忘れてはならない。
- 車体サイズが大きいことは、歩行者などとぶつかりやすい。他の車にも多大な迷惑をかける。
- ボンネットや窓の位置が高いことは、歩行者などを見落とし、ぶつかりやすい。
- ボンネット前端が高いことは、歩行者などを押し倒し、ひき殺しやすい。
- 車高が高く、タイヤの露出が大きいことは、歩行者などを押しつぶしたり、巻き込みやすい。
つまり、個人的嗜好のために高いお金を払って選んでいる車が、周囲の人に甚大な悪影響を与えている。この危険性について多くの人が知り、死傷する人や悲しむ遺族が少しでも減って欲しい。
しかし、全ての車ユーザーがこれらを理解することは難しいため、法規や税制の改善によって危険な車を減らすことが必要だ。そのためには、読者の方からも、国土交通省の窓口(国土交通省ホットラインステーション)へ意見をぜひ送っていただきたい。
出典
- 道路運送車両の保安基準の細目を定める告示【2023.6.5】別添81(直前直左確認鏡の技術基準) ↩︎
- 道路運送車両の保安基準の細目を定める告示【2025.6.17】 第105条(運転者席) ↩︎
- 大型車の直接視界基準について(UN-R167 関係) ↩︎
- https://usa.streetsblog.org/2024/12/27/best-of-2024-six-reasons-why-suvs-and-pick-ups-are-so-deadly ↩︎
- Vias institute Des voitures plus lourdes, plus hautes et plus puissantes pour une sécurité routière à deux vitesses ? ↩︎
- T&E Ever-higher: the rise of bonnet height, and the case to cap it ↩︎
- T&E Ever-higher: the rise of bonnet height, and the case to cap it ↩︎
