路線バスや鉄道等の公共交通は、安全性、環境性、ユニバーサル性、渋滞、インフラコスト、都市のコンパクト化、健康等々、様々な面で自家用乗用車(以下、車)より格段に優れているにも関わらず、日本各地で衰退し続け、車依存が加速しています。
公共交通衰退の主な原因は2点
この主な原因は、下記2点だと考えられます。
①車に関する費用が定額(に近い)部分の割合が大きく従量制の部分が小さいため、車の使用時費用が公共交通運賃より大幅に安いこと
②公共交通が、車より大幅に時間がかかること
本稿では、②の原因の中で、特に表定速度が遅い路線バスについて、解決策を提案します。
なお、①についての改善案詳細については、下記をご参照ください。
バス優先信号等の普及率はたった0.2%!
バスの表定速度が車より遅い主な理由は停留所に頻繁に停車するからですが、停留所を減らすことは困難であるため、車と同等以上の表定速度にするためには停留所以外は止まらないようにすることが最も効果的だと考えられます。
つまり、渋滞や信号待ちを回避するように、バス優先レーンや優先信号をバス路線内に導入すれば良いのですが、現状では、ごく一部(0.2%)の場所にしか導入されていません1。この理由は、コスト等の問題もありますが、バス以外の車(以下、一般車)について渋滞が悪化することを憂慮していると思われます。
本当に渋滞は悪化するのでしょうか?
そもそも、道路上でバスが車と同じ優先度であることは、妥当なのでしょうか?
車からバスに転換すれば、交通量は1/46に減る
一般的な路線バスの最大乗車人数は60人程度である一方、車の平均乗車人数は1.3人と言われている2ため、路線バス1台の乗車人数は、おおよそ車46台に相当します。
つまり、車の利用者全員がバスに乗れば、通行台数は最小で1/46に減ることになり、一部がバスに転換するだけでも交通量がかなり減ることが考えられます。
このため、バス優先レーンや優先信号を導入しても、バスの運行本数を増やす等、車利用者にバスへ転換を促進させる対策を行えば、一般車が渋滞することは無く、むしろバスを利用することで速く楽に移動することが可能になります。逆に現状では、バスが優先されず遅いために車利用が増え、渋滞が悪化し、さらにバスが遅くなるという悪循環に陥っていると言えます。
また、多数の人が乗車しているバスを先に通すことは、道路を通過する時間当たりの人数を増加させることになるため、道路の効率の観点でも妥当だと言えます。
なお、バスの運行台数が増えることで、バスの渋滞や運転手不足等の問題も考えられますが、利用者数に応じて連接バスや長編成のLRT等を導入することで、対応は可能です。
なお、運転手不足の原因と対策については、下記をご参照ください。
車利用者は道路を不当に広く占有している
渋滞の観点だけでなく、道義的な点で考えても、現状は不平等な状態です。
つまり、人が移動する際の1人当たりの道路占有面積は、やむを得ない事情がある場合を除き平等であるべきですが、車利用者は身体の周りに大きな鉄の囲いを身につけて、バス利用者の何十倍もの面積を正当な理由なく占有しています。
下図に示すように、乗っている人間だけに注目すれば、いかに不平等であるかがわかります。
また、不当な道路占有により渋滞や信号待ちを発生させてバス利用者の円滑移動を妨げているため、車利用者はバス利用者に多大な迷惑をかけていると言えます。
バスは車44台を追い抜いて良い
車46台が渋滞している場合、車を利用している人がバスに乗ればバス1台の道路占有で済むため、後続のバスは車44台分の距離を前に進めます(バス1台の長さが乗用車約2台分で、46-2より)。
このため、勝手な都合で道路を広く専有し渋滞を発生させて迷惑をかけている車利用者は、詰め合って乗っている多数のバス利用者を先に通行させることが道義的に妥当です。つまり、渋滞する区間には可能な限りバス優先レーンを設け、バスを先に通すべきだと言えます。
バスは信号で止まらなくて良い
次に、交差点での信号待ちについて考えます。多数の車が交差点を通過している際、交差する道路は赤信号になっていますが、この車利用者が全てバスに乗れば、交差点を通過する交通量は最小で1/46に減少するため、信号はほとんど不要となります。これにより、交差する道路にバスが来た場合、交差点でほとんど止まらずに通過することができます。つまり、車を利用することが交通量を大幅に増やし、信号を必要とさせ、結果的に交差する道路のバスを止めていることになります。
このことから、バスが接近する信号を全て青(または黄点滅)、交差する道路の信号を赤(または赤点滅)にして、バスを優先的に通すことが道義的に妥当だと言えます。
バスは、渋滞区間や交差点を優先通行させることが妥当
上記のことから、バスは渋滞区間や交差点を優先的に通行させることが、渋滞対策としても道義的にも妥当だと言えます。よって、バス路線におけるあらゆる渋滞区間や信号に、バス優先レーンや優先信号を整備するべきです。
バスと歩行者の優先度
次に、バスと横断歩行者の優先度について考えてみます。
信号の無い横断歩道や交差点などにおいて、現状はバスや路面電車よりも横断歩行者が優先ですが、海外の路面電車では車両優先の場所もあります3。また、日本でも一般の鉄道については踏切や道路併用区間では、車両優先となっています。
バスと横断歩行者の、どちらを優先すべきでしょうか?
社会に対する有益性を考えると、多数の人が乗車している車両を1人の横断歩行者ために停車させることは、明らかに非合理的であるため、バスや路面電車は横断歩行者より優先させることが妥当だと言えます。
なお、安全性の面から、横断歩行者が近くにいる場合は速度を落としたり、歩行者や他の車に対して注意を促す接近警報器(表示や音)を道路や車両に設置する等の対策が必要であると考えられます(鉄道の踏切や道路併用区間、緊急車両等と同様)。
道幅が狭い場合の優先レーン
なお、道幅が狭くてバス優先レーンの設置が困難な場所も多いですが、鉄道の道路併用区間では、鉄道車両が来たら車が路肩や反対車線に避ける場所もあるため、バスも同様の対応により優先通行が可能だと考えられます。詳しくは下記に記載していますので、ご参照ください。
自動運転のハードルが下がる
また、昨今各地で導入が試行されている自動運転バスについても、他の交通より優先させるルールや信号システムとすれば、現状では必要となっている優先車の通行を妨げないように制御する高度な技術が不要となるために、導入のハードルが大きく下がり、早期の導入が可能になると考えられます。つまり、設定されたルートを磁気マーカー等に従って走行し、交差点などでは徐行、障害物があれば停車するという、単純な制御になります。これは、AGV(無人搬送車)と呼ばれる何十年も前から工場内等では当たり前に使用されている技術と原理的には同じであり、それを公道上に拡張したものと言えます。
信号交差点をラウンドアバウト化してバス優先とする方法も
バス優先信号は、バスと信号双方に通信器等の設置を行う必要があるために、導入にはある程度のコストがかかる問題があり、普及が進まない一因となっていると考えられます。一方、日本の信号機の数は、諸外国に比べて桁違いに多いと言われており、バスの表定速度が低下する一因と考えられるため、信号をラウンドアバウト等の無信号交差点に変更し、交差点ではバスを優先するルールにすることも有効だと言えます。なお、信号機の数やラウンドアバウトの詳細については、下記に記載していますので、ご参照ください。
一度に多くの人が移動できるバスや路面電車は、少数移動者(一般車、歩行者)より優先することが妥当
上記の事をまとめると、多くの人が乗っている車両を優先した方が多くの人の利益になるという、非常にシンプルで当たり前な考え方になります。本稿では路線バスについて考えましたが、この考え方に基づけば、バスだけでなく路面電車にも当てはまりますし、自家用バスや観光バス等も含んでも良いかもしれません。
また、タクシーについても、乗合の場合や、バスや鉄道の通っていない場所や時間に限定すれば、公共交通を補完する役割として、優先するべきではないかと考えられます。
- 国土交通省 バス産業勉強会報告書P53より公共交通優先システム(PTPS)の総延長は695.2km(2008年)、国土交通省 地域交通をめぐる現状と課題P5より全国のバス路線合計約40万km(2019年)なので、695.2/400,000≒0.2% ↩︎
- 国土交通省 平成 27 年度 全国道路・街路交通情勢調査 自動車起終点調査(OD調査)集計結果の速報について ↩︎
- 国土交通省 歩行者と路面電車の空間整備について~トランジットモールの導入に向けて~P12 ↩︎