公共交通復活のためには、車固定費を可能な限り従量制にすべき

車と鉄道の費用比較(自動車税、保険を従量化した場合)交通

大都市部を除く日本各地で数十年以上前から鉄道や路線バスの廃止や運行本数削減が続いています。それにより、車を運転できない人々が移動の自由という基本的権利が守られない状態に陥り、毎日の生活に苦労したり、移動を制限される移動困難者となっています。そして、このような移動困難者は、高齢者、子供、障害者、傷病者、運転が苦手な人、貧困者、飲酒する人等、決して少ない人数ではなく、高齢化の進展により更に増え続けています。

また、車の過度な使用により、毎年36万人以上の交通事故死傷者や、多大なCO2及び大気汚染物質の排出、都市中心部の衰退、都市の拡散によるインフラ等行政コストの増大、道路渋滞、道路整備・維持コスト増加、渋滞のストレスや運動不足による健康悪化等、深刻な影響を長年にわたり社会に与え続けています。また、高齢になっても運転せざるをえないことが、事故を増加させています。

これらの多大な問題解決のため、車の使用を抑制し、公共交通への転換を進めるべきであることは議論の余地の無いことであり、日本各地で公共交通使用促進のための様々な努力が以前より続けられていますが、結果的には、使用促進どころか、衰退の流れが全く止まっていない状況となっていることは、皆さんも良くご存じかと思います。

我々はなぜ公共交通よりも車を選ぶのか、ゼロから考えてみます。

  1. 最大の原因は車使用時の費用が安いこと
  2. 対策は、車費用を上げるか、運賃を下げるか
  3. 定額制部分を従量制に
    1. 走行距離に車種毎の税率を掛けると共に炭素税を上げる
    2. ヤリスの定額費用は燃料代の4倍以上
    3. 自動車税と保険を従量化すると、車使用時費用は鉄道運賃の1.5倍以上に
    4. 駐車料金割引の禁止
    5. 高速道路料金を走行距離課税に置き換えて統合
  4. 車費用従量化案のメリット、デメリット
    1. メリット①:多くのユーザーの理解が得やすい
    2. メリット②:公共交通が不便な地域でも車抑制効果が高い
    3. メリット③:燃費が良くなっても車使用抑制の動機が減少しない
    4. メリット④:公共交通の収益が改善し、新設、改善が進む
    5. メリット⑤:都市がコンパクト化してインフラコストやCO2排出が減少
    6. メリット⑥:低燃費車への買い替えが進みCO2が減少
    7. メリット⑦:新型車への買い替えが進み交通事故死傷者減少と大気汚染改善
    8. メリット⑧:車の低炭素技術開発が加速
    9. メリット⑨:無保険や保険補償額不足の解消
    10. メリット⑩:徴収、納税コスト・工数削減
    11. メリット⑪:非合理的な軽自動車が無くなり安全性向上と価格低下
    12. メリット⑫:駐車料金割引・無料の禁止により短距離走行時も車使用が減少
    13. メリット⑬:高速道路料金を走行距離課税に置き換えれば、一般道の交通量が更に減少、安全性、燃費、利便性も向上
    14. メリット⑭:高速道路料金を走行距離課税に置き換えれば、高速道路出入口が増設され、一般道の交通量が更に減少
    15. デメリット①②:車使用が多いユーザーの負担増、物価上昇
    16. デメリット③:過疎地域が衰退
    17. デメリット④:廃車増加によりCO2・廃棄物が増加
  5. 公共交通運賃低減案のメリット、デメリット
    1. メリット①:車を使用しない人も公共交通を使用しやすくなる
    2. デメリット①:増税が避けられず、納税者の理解を得にくい
    3. デメリット②:公共交通が不便な地域では車利用の減少に繋がらない
    4. デメリット③:公共交通運賃を大幅に下げないと、車利用の減少に繋がらない
    5. デメリット④:公共交通の新設や利便性向上のためには更に増税が必要
    6. デメリット⑤:公共交通の経営効率化やサービス向上が進みにくい
  6. まとめ:公共交通改善だけでなく、車の費用を従量化して使用抑制を
  7. 参考文献

最大の原因は車使用時の費用が安いこと

ある場所に行く必要がある時、公共交通がある程度整備されている地域では、車と公共交通機関での行き方をそれぞれ調べて比較すると思います。そして、車の方が、所要時間が短いことや天候に左右されにくいこと等々、メリットが多いと思われますが、車の最も大きなメリットは、車使用時の費用が公共交通運賃より大幅に安いことではないでしょうか。

なお、公共交通の速達性等の改善については、下記に詳しく記載してますので、参照ください。

ここで言っている車使用時の費用は、燃料代や目的地での駐車料金等を指しますが、燃料代は車に一人で乗っていても公共交通運賃の概ね半分以下であり、駐車料金も条件により無料となることが多いため、車から公共交通に変更すると費用が大幅に増加することになります。

例えば、15kmの距離をJR在来線幹線を利用した場合の運賃は240円※1に対し、トヨタヤリスの燃料費は85円(実燃費26.5km/L※2、ガソリン価格150円/L)であり、約3分の1です。また、公共交通がバスであったり短距離利用、乗り換え、大回りであれば、運賃はより高くなる一方、車に複数の人が乗っていたり、より低燃費車であったり、EVであれば、1人当たりの燃料費(電気料金)がさらに減少し、公共交通運賃の1/10以下にもなります。

つまり、車使用時の費用が公共交通運賃より大幅に安いために、公共交通があっても多くの人が車を選び、それにより公共交通が衰退して利便性が悪化し、益々公共交通を使わなくなるという悪循環に陥っています。この圧倒的な費用の差を解消しない限り、公共交通の利便性改善等の努力をいくら行っても、公共交通をわざわざ利用する人は殆ど居ないということは至極当然のことではないでしょうか。

他に例えれば、定額話し放題の携帯電話を持っている人に、公衆電話も使ってくれと言っているようなものです。

また、車の燃費向上やEV化が今後も進むことにより、現状のままでは燃料代(電気代)負担が更に安くなるため、車依存が更に進行して公共交通が益々衰退することは必至と言えます。

なお、車を保有するためには、燃料代以外にも、車両購入費、自動車税、重量税、損害保険料、整備費用、賃貸駐車場代等、多くの費用がかかり、車を手放せばこれら費用も無くなりますが、公共交通が充実した地域以外にほとんど行かず、少人数でしか移動せず、大きな荷物を運搬することが少ない、ごく一部の人以外は利便性が大きく低下するため、現実的ではありません。

電話に例えれば、端末価格が高く月額料金もそれなりにかかっても、利便性の高さから、携帯電話をやめて公衆電話を使う人は誰もいないということです。

対策は、車費用を上げるか、運賃を下げるか

この費用差を無くす対策として、公共交通運賃を下げるか、車使用時の費用を上げるかの2つの方法がありますが、一般的に前者が良く検討されており、海外では実施されている地域も多くあります。

一方、後者については、単純に燃料価格を高くすると多くの人からの反発が必至であるため、日本では殆ど検討されていません。なお、欧州等では燃料価格が日本の2倍程度の国もあるようです(所得水準の違いもありますが)。

定額制部分を従量制に

反発が少なく車使用時の費用を上げるためには、平均的なユーザーにおける車関連の総費用を不変のまま、定額制の部分の費用を可能な限り従量制に変更すること(以下、車費用従量化案)を提案します。

走行距離に車種毎の税率を掛けると共に炭素税を上げる

具体的には、排気量や重量、車両区分等で規定されている自動車税、重量税、自賠責保険料、車購入時の環境性能割や消費税をまとめて、車種等の条件毎に走行距離1km当たりの課税に変更します。また、任意保険料も走行距離1km当たりの価格に変更します。徴収方法は、車検や任意保険更新時にメーターの走行距離表示を写真撮影等により確認し後払いする方法等が考えられます。また、ドイツなどでは車載したGPSで走行距離を算出して課税する方法も行われています※6

車種毎の税率(走行距離に掛ける係数)については、道路損傷やCO2排出、公共交通への影響、交通事故、道路占有等の原因者負担をなるべく公平に反映させるため、車両重量や車軸数※7、距離当たりCO2排出量、用途、安全性能、道路占有面積等を考慮して算出することが考えられます。

なお、従量化(走行距離課税等)による地方と都市部の費用変化や、税率の算出方法についての詳細は下記にも記載していますので、ご参照ください。

また、車費用の定額部分をガソリンや軽油、電力価格に置き換えて従量化することも考えられますが、カーボンニュートラル燃料/電力も普及し始めているために化石燃料由来か否かの区別が必要であることや、電力は自動車用とそれ以外の用途の区別が困難である問題があります。また、社会全体の脱炭素を進めるためには、炭素税により化石燃料価格やそれ由来の電力価格を上げる必要もあるため、それらの価格上昇や車のエネルギー消費率の向上に合わせて走行距離課税のCO2排出量要素や総額を調整し、車費用の平均が現状と同等になるようにすることが、車使用を抑制しつつ反発を招かないために必要だと考えられます。

なお、社会全体のCO2削減のための方策については、下記に記載していますので、参照ください。

ヤリスの定額費用は燃料代の4倍以上

現状では、定額である上記の税や保険料の比率が燃料代等の従量部分よりも非常に大きくなっています。例えば、トヨタヤリスの燃料代は日本の平均年間走行距離6,017km※3で3.4万円/年に対し、自動車税、自賠責保険料、任意保険料(重量税は免税)合計は14.2万円/年※4で、燃料代の4倍以上です。つまり、現状は定額使い放題に近い費用負担制度になっています(グラフ参照)。

自動車税と保険を従量化すると、車使用時費用は鉄道運賃の1.5倍以上に

これら定額部分を、年間走行距離6,017km年における費用総額を不変として従量化すると、車使用時の費用は5.7→24.4円/kmとなり※5、鉄道運賃の16.0円/kmの1.5倍以上になります(グラフ参照)。これにより、大部分の車使用者の費用負担が大きく変わらない、または減少すると共に、公共交通を使った方が安くなることで公共交通の使用が促進されます。

駐車料金割引の禁止

また、現状では商業・公共施設や会社の駐車料金が割引や無料となっていることが多く、実質的に駐車料金が商品価格や施設利用料に含まれていることになり、駐車場を使わなくても間接的に負担させられているため、定額と同様の状態です。これは駐車場不使用者にとって非常に不公平であるので、商品価格や施設利用料に含まれている駐車料金を分離し、駐車場使用者だけから徴収する、つまり、駐車料金の割引や無償利用を禁止(従量化)すべきです。これにより車使用時費用を上げることができます。

高速道路料金を走行距離課税に置き換えて統合

また、現状は高速道路が有料であるために、安全性や燃費、速達性、騒音影響等で劣る一般道に車を誘導することになっており、社会的な損失を増加させることになっています。このため、高速道路料金をを走行距離課税に置き換えて税額を上げることで、一般道の使用時費用が高速道路と同一となるため、高速道路が無い地域や近距離移動の車使用を減らすことが出来ると共に、様々な面で優れている高速道路を利用しやすくなり、交通事故死傷者やCO2排出量、時間損失、騒音影響等の低減が図られます。

なお、上記の変更は、ある程度時間を掛けて段階的に行うことで、ユーザー対応や公共交通整備の時間が確保でき、反発も抑制できると思われます。

車費用従量化案のメリット、デメリット

これらの車費用従量化案について、メリット、デメリットを詳細に検討しました。メリットは14項目、デメリットは4項目となり、非常にメリットが多いと言えます。以下に詳細を説明します。

メリット①:多くのユーザーの理解が得やすい

平均的なユーザーの費用負担は不変になるように従量化することにより、多くのユーザーの理解が得やすく、実現の可能性が高いことです。特に、現状では車使用が多くない沢山の人が過大な負担をしている状態であり、車使用が少ないユーザーは負担が減少して不公平が是正されるため、積極的に賛成すると考えられます。

メリット②:公共交通が不便な地域でも車抑制効果が高い

公共交通が不便な地域であっても、車使用時の費用が高くなれば、自転車、徒歩、相乗り、企業等の送迎バス等、公共交通以外の方法で車使用頻度を抑制したり、不便であっても公共交通を利用したりする人が増え、全体として車の使用抑制効果が高いことです。自転車、徒歩に転換すれば健康の増進にも繋がります。

また、後述するデメリット②の運送費上昇は、一方で更なる企業努力を行う動機となり、貨物輸送の効率化が進むメリットにもなります。特に近年は通販等の配達時間の短縮を競う等により、過剰に高頻度で非効率な輸送も見られるため、他業者の荷物もまとめて配達したり、貨物を旅客車両に混載する等、効率化の余地は大きいと思われます。

メリット③:燃費が良くなっても車使用抑制の動機が減少しない

車の燃費向上やEV化により燃料・電気の使用量が更に減っても、その減少以上に車使用費用を段階的に高くしていくことで、車使用抑制の動機減少を防げ、増加させることができます。

例えば10年前と同等車種の燃費を比較すると、ハイブリッド化等により燃料消費量が50%程度減少しています※8。これにより、現状では燃料代負担が減って節約の動機が薄れ、車の使用頻度が増えたり、大型車に買い替えたり、車のモデルチェンジで車が大型化することが多くあると考えられます。実際に、車両重量の平均は、軽量化技術が進化しているにも関わらず増加しています※9(安全環境対策の影響もありますが)。

多くの技術者が長年にわたり技術開発に多大な努力を行い、ユーザーも追加の購入コストを支払い、また税制優遇も行って燃費が良い車を普及させているにも関わらず、燃料消費量(CO2排出量)の削減が相殺され、車の使用頻度も増え、衝突時に相手に与える被害の大きい車も増えてしまっていることは大きな問題であり、これらを防ぐためには、少なくとも燃費向上分以上に走行距離課税額、または燃料価格を引き上げることが必要であると言えます。

メリット④:公共交通の収益が改善し、新設、改善が進む

公共交通が無い、または不便な地域でも車使用時の費用を抑えたい人が増えるため、公共交通の路線新設や、運行本数増加等の利便性改善を行うことで利用者が増加し運賃収入による利益が増える可能性が高まるため、新設、改善が進むことです。つまり、路線新設等を行う際の収支予測が黒字になりやすくなり、ビジネスとして成立する可能性が高まるため、多くの事業者や投資家が様々な地域で自発的に公共交通整備を行うようになるとともに、サービスの向上と運賃低減を競い合うようになります。但し、無秩序な整備は利用者の不利益をもたらす可能性もあるため、自治体が方向性を決めて誘導していく必要はあるでしょう。

メリット⑤:都市がコンパクト化してインフラコストやCO2排出が減少

メリット⑤として、車使用の抑制動機が強くなることにより、日常の車移動距離が短い場所に集まって住む人が増えるため、電気、上下水道、電話、インターネット、郵便、宅配、道路、ゴミ収集、警察、消防、学校、行政、介護・医療等のインフラを維持運営するコストや消費エネルギーが低減し、税額やサービスの価格が低減されると共にCO2排出の削減に繋がると考えられます。

メリット⑥:低燃費車への買い替えが進みCO2が減少

燃料価格を高くしたり、CO2排出量の多い(燃費の悪い)車ほど走行距離課税率を高額にすることにより、燃費の良い新型車や小型車、EVへの買い替えが進み、CO2排出量が低減されます。現状では、高価格の低燃費車(ハイブリッド車等)を購入しても、従来エンジン車との価格差を燃料代で回収することは難しく、安価で燃費の悪い車を購入する人が2019年時点で5割程度います※10(ハイブリッドと従来エンジンの両方の設定がある車種のみでの割合)。燃費の悪い車の費用が増えれば、車体価格が高くても燃費の良い車やEV、または価格の安いより小型の車を購入する人が増え、CO2排出低減が加速されます。

また、燃費が悪い大型車の使用時費用が増加する一方で、保有に関する費用が減少するため、複数の車を保有したり、カーシェアを利用する等により、大人数乗車や荷物が多い時のみ大型車を使用し、それ以外は燃費の良い小型車を使用するという使い分けを行う人が増え、それによってもCO2排出低減が加速されると考えられます。

メリット⑦:新型車への買い替えが進み交通事故死傷者減少と大気汚染改善

前項の理由や、安全性や排ガス浄化性能が高い車の走行距離課税率を低くすることで、これら性能が向上している新型車への買い替えが促進されるため、交通事故死傷者が減少し大気汚染が改善します。

例えば、衝突被害軽減ブレーキ装置(自動ブレーキ)の装備により死傷事故件数が63%減少し※11、このような様々な安全技術の普及等により、2021年の交通事故死者数は30年前(1991年)比で76%減少し、年間8,473人の命が救われています※12。また、2021年11月から新型車に対する自動ブレーキが義務化される等、安全性に対する規制は継続的に強化されています。

排ガス浄化性能についても、例えば現在の排ガス有害物質排出規制を15年前(2007年)の規制切り替わり以前と比較すると、有害物質排出量は数十分の1※13、試験条件の強化も考慮すると実際はそれ以上に大幅に低減されており、大気汚染状況も年々改善されています。但し、未だ一部の物質については基準に達しておらず※14、大気汚染による健康被害者数も少なくないため※15(自動車以外の原因もありますが)、今後も規制が更に厳しくなると言われています。

しかしながら、既に販売された旧型車は安全性能や環境性能が低いまま走り続けているため、新型車への買い替えを促進することが、交通事故や大気汚染で死傷する人を減らすために必須であると言えます。

メリット⑧:車の低炭素技術開発が加速

燃料価格を高くしたり、CO2排出量の多い(燃費の悪い)車ほど走行距離課税率を高額にすることにより、価格の高い低燃費車やEVが売れて燃費向上技術やEV等の開発が促進され、CO2排出がより低減されると共に国内自動車メーカーの国際競争力が向上します。

筆者も長年にわたり車の燃費向上開発に携わっていましたが、燃費向上効果が高い新技術でも高コストで売れる目途が立たず開発を中止することが多々あり、また、自動車メーカーとしても年々厳しくなる燃費規制(車種毎の燃費値と販売台数から算出する企業平均燃費)をクリアするためには燃費の良い車種を多く販売する必要があるにも関わらず、燃費の悪い車が良く売れて販売を制限することもあります。高コストでも燃費が良い車が売れるようになれば、これら弊害も解消され、燃費向上技術やEV等の開発により多く資金を投入できるようになり、技術開発の加速が期待されます。

メリット⑨:無保険や保険補償額不足の解消

自賠責保険料を走行距離課税に置き換えて徴収することにより、自賠責保険の無加入により被害者に賠償できない問題を解消できます。

また、自賠責保険だけでは補償が不十分にも関わらず、約1割の車が任意保険に未加入である※16という問題もあり、この対策として任意保険で一般的にカバーしている対人、対物、搭乗者の保険についても強制保険に変更することが考えられますが、これらも走行距離課税に置き換えることにより、更に車使用抑制効果が高まります。

メリット⑩:徴収、納税コスト・工数削減

現状、行政がユーザーから徴収する税や保険料は、毎年の自動車税、車検時の重量税や自賠責保険料、購入時の環境性能割等があり、自動車税は毎年全所有者に徴収の依頼書を送付し、未納者には督促状も送付し、所有者も納付の工数がかかり、口座振替でも金融機関の手数料が掛かっています。自賠責保険料も、保険代理店まで行く手間や代理店担当者の工数が掛かっています。これらの税、保険料を車検時に払う走行距離課税に置き換えれば、多くの人にとって膨大な費用・工数が削減できます。

なお、自動車関係に限らず、非常に複雑で数多い税や社会保険料等の算出、申告、徴収、納付、還付、節税対策等の工数や、後述する非合理的な規制への対応は、付加価値を生まない無駄なコストや工数として多大に浪費され続けており、日本の産業競争力低下や賃金停滞の一因になっていると考えられるため、税や規制等の真の目的に対して可能な限り直接的に作用するシンプルな制度にすることが必要だと思います。

メリット⑪:非合理的な軽自動車が無くなり安全性向上と価格低下

自動車税が無くなれば非合理的な軽自動車の規制が無意味となり、より安全性が高く、低価格の車が普及すると考えられます。

軽自動車は、エンジン排気量や車体サイズ等が一定以下の車において自動車税を優遇し、購入を促進させていますが、排気量や車体サイズを規制する目的に全く合理性が無く、ユーザーやメーカーに対して以下の悪影響を及ぼしています。

  • 排気量(実際の排気ガスの量とは異なる、ピストン位置が上端と下端の間のシリンダー体積)の上限が制限されているため、車両重量に対して燃費が最良となる排気量よりも一般的に小さい排気量となっており、燃費を悪化させています。また、燃費向上のための新技術(希薄燃焼等)の多くは従来のエンジンより排気量を大きくする必要がありますが、これらが採用できない問題があります。また、排気量が制限されることで加速力が不足する車種もあり、排気量拡大よりも高価な部品(ターボ過給機)を付ける必要があるため車両価格が上昇し、オイル交換頻度も高くなるため、購入者に余分な費用を払わせることになっています。
  • 全長・全幅を制限することで安全性が低下したり、安全性を確保するコストが高くなっています。例えば、電柱を模したポールに横から衝突させる試験では、軽自動車はドアが薄く平板であること等から普通車より低い速度に規定されています※17(2023年から引き上げられる予定)。本来は、本当に小さい車体サイズを必要とするユーザーのみが小さい車を選択すべきですが、それ以外のユーザーも税制優遇により安全性の低い車を無意味に選択させられています。
  • エンジンの排気量や車体サイズの制限値が日本独自の値であるため、エンジン、車体共に海外仕様車と共通化できず、専用に開発・製造するためにコストがかかり、メーカーの国際競争力や社員の賃金が低下したり、購入者に余分な費用を払わせることになっています。また、海外向けの同等クラス製品が日本であまり販売できず競合が少ないことや、日本の緩い衝突安全基準のみに対応していることにより、軽自動車は海外向け同クラス製品より性能が劣っている可能性があると共に、購入者の車種選択肢を奪うことになっています。

メリット⑫:駐車料金割引・無料の禁止により短距離走行時も車使用が減少

訪問先施設の駐車料金割引・無料を禁止すれば、短距離走行時も車使用の費用が高くなり、使用を抑制する効果が高まります。また、施設事業者は駐車場収入で商品やサービスの価格を値下げでき、駐車場を使用しない施設利用者に還元できます。

なお、小規模商店等は、駐車料金徴収設備の設置が難しい可能性が考えられるため、駐車場を利用しない利用者に申告させて値引きすること等も解決策として考えらえます。

メリット⑬:高速道路料金を走行距離課税に置き換えれば、一般道の交通量が更に減少、安全性、燃費、利便性も向上

高速道路料金を走行距離課税に置き換えれば(料金所のでの徴収をやめ走行距離課税に含めて年払いにすれば)、一般道使用時の費用が高速道路と同一になることで、並行する一般道の車の多くが高速道路に移り、一般道の交通量が更に減少します。これにより、横断歩行者や自転車がいる一般道の安全性が向上すると共に、高速道路はカーブが緩く信号や交差車両も無いために車搭乗者の安全性も向上し、加減速も少なくなることで燃費も向上(CO2排出が減少)し、道路が住宅地から離れていたり防音壁もあることから騒音被害も減少すると共に、所要時間短縮による企業活動の業務効率向上や、余暇時間増加による個人消費増加やQOL(生活の質)向上の効果が考えられます。

また、一般道使用時の費用が高速道路並みに上昇することで、短距離の公共交通使用者がさらに増加すると共に、高速道路使用時費用は不変であるために物流事業者は費用負担がそれほど増加せず、走行距離課税導入に対する反発が少ないと考えられます。

なお、過去に高速道路無料化が検討された際は渋滞や公共交通への影響が問題となりましたが、料金を無料化するのではなく徴収方法を変えるだけであると共に、車費用を従量化して使用時費用を高くすることで、これらの問題は全く発生しないと考えられます。

メリット⑭:高速道路料金を走行距離課税に置き換えれば、高速道路出入口が増設され、一般道の交通量が更に減少

高速道路料金を走行距離課税に置き換えることで、出入口の料金所が不要となって全方向の出入り口を料金所に集合させる道路が必要が無くなるため、出入口の増設が容易になります。出入口を増設することで、発着点から出入口までの一般道の距離が短縮され、一般道の車がより一層減少します。

なお、北米等では無料の高速道路が多いため、地方の市街地では数km毎に、大都市部であれば更に短い間隔で、立体交差の側道のような簡易的な出入口があるところが多く、日本の無料のバイパス道路の感覚で短距離でも高速道路を利用できます。

また、鉄道路線の近くに出入口を作れば、車からの乗り換え施設(駅、駐車場)の新設も可能となるため、都心部への車流入が抑制され、渋滞の解消、鉄道の収益改善が可能となります。また、近距離のバス路線も短距離のみ高速道路を利用できるようになり速達化が可能となり利便性が向上します。また、高速道路に乗り降りしても追加の費用が発生しないため、サービスエリアを高速道路内に設置する必要がなく、近隣住民も利用できる様々な施設を出入口周辺に自由に作ることが可能となるため、地域経済の発展にも繋がります。

デメリット①②:車使用が多いユーザーの負担増、物価上昇

次にデメリットですが、メリット①の背反として、車使用が多いユーザーについては負担が増加するため、反発があることが考えられます(デメリット①)。特に、車使用が多い運送会社等の業務経費が増加することにより運送費が上昇し、様々な物の値段が上がる可能性が考えられます(デメリット②)。

なお、高速道路を使う長距離輸送については、高速道路料金を無料化して走行距離課税に転嫁することを行うことで、費用負担増加と反発をある程度抑制できると考えられます。

デメリット③:過疎地域が衰退

メリット⑤(都市のコンパクト化)の背反として、過疎地域の衰退が更に進むことが考えられます。しかしながら、人口減少と脱炭素の大きな流れがあることや、実際にかかるコストや環境負荷(CO2排出量等)に応じて費用を負担するという公平性の観点からも、このデメリットはある程度やむを得ないのではないでしょうか。

なお、人口減少(少子化)については、今後、税収や社会保険収入が不足すると共に産業が停滞し、全国民に対し様々な影響が深刻化することが必至であるため、子供養育に関連する全ての費用・工数を国が全額が負担する等、抜本的な少子化対策が必要であると考えられます。

デメリット④:廃車増加によりCO2・廃棄物が増加

メリット⑥⑦(車の買い替え促進)の背反として、車の製造、廃棄時の消費エネルギー(CO2排出量)や廃棄物が増加するデメリットもあります。

なお、廃車のリサイクル率は重量基準で99%となっており※18、廃棄物はそれほど多くはないようですし、長期的には公共交通が発展することで車を手放す人が増え、車の買い替えも減少すると考えられます。また、EVの電池製造には比較的エネルギー消費が多いですが、走行時のエネルギー消費は内燃機関車よりも少なく、またCO2排出が少ない方法で発電された電気を使えば、全体としてのCO2排出量も減ることになります※19

公共交通運賃低減案のメリット、デメリット

次に、車使用時費用と公共交通運賃の差を解消するもう一方の方法である公共交通運賃低減案についても、メリットとデメリットを検討し、メリットは1項目、デメリットは4項目が考えられました。

メリット①:車を使用しない人も公共交通を使用しやすくなる

運賃が安くなることにより、車を使用しない人も公共交通を使用しやすくなることです。但しこの対象者は、現状、車も公共交通も使用していない人、つまり、運賃を払う経済的余裕が無くて自転車や徒歩で移動していた人であり、このような人はそれほど多くないと思われます。また、そのような人への支援は、その他の生活費を含めてベーシンクインカム等の社会福祉制度で対応すべきことだと考えられます。

デメリット①:増税が避けられず、納税者の理解を得にくい

財源を税金に頼ることにより増税が避けられず、納税者の理解を得にくいことです。特に公共交通が近くに無い、またはあっても不便な人にとっては見返りが全くないため、反発は必至であると思われます。このため、増税が出来ても限定的にならざるを得ず、赤字路線の維持程度の最小限の補助になる可能性が考えられます。

デメリット②:公共交通が不便な地域では車利用の減少に繋がらない

公共交通が近くに無い、またはあっても不便な地域において、運賃が安くなっても車利用を控える動機にはならないため、車利用の減少には繋がらないことです。なお、運行本数を増やしたり駅に無料駐車場を設ける等の利便性向上と、商業施設や公共施設、企業等を公共交通の近くに誘致する等、街づくりも併せて対策を行えば、公共交通沿線に移り住む人も増え、車の利用の減少効果を増加させることができると考えられます。

なお、過去長年にわたり、JR(国鉄)は都市部路線での利益を、また第三セクター鉄道では税金を、赤字ローカル線に投入して路線維持や運賃値上げ抑制を行ってきており、新たな税を作っても、状況は以前と大きく変わらないように思われます。

デメリット③:公共交通運賃を大幅に下げないと、車利用の減少に繋がらない

既述の通り、現状では車の使用時費用に比べて公共交通運賃が大幅に高いため、運賃を少し下げても、車より安くならず、車利用の減少効果はほとんど無いと考えられます。特に、ある程度収入に余裕のある人は家計に対する車使用時費用の割合が低いため、公共交通運賃を車並みに下げても、効果は無いと考えられます。

デメリット④:公共交通の新設や利便性向上のためには更に増税が必要

低運賃の公共交通で路線新設や利便性向上を行うと、更に沢山の財源、つまり増税が永久に必要となるため、その理解を得ることが難しいことです。車利用を大幅に抑制するためには、公共交通の路線新設や利便性改善は不可欠であり税金の投入もある程度必要だと思いますが、その一方で車利用時の費用を定額使い放題に近い状態に放置していては、税金の使い方として費用対効果が非常に悪いため、車費用の従量化も併せて行うこと必須であると言えます。

デメリット⑤:公共交通の経営効率化やサービス向上が進みにくい

公共交通運賃低減案のデメリット④は、赤字が税金で補填されることにより公共交通事業者の経営努力の動機が弱くなり、将来的に非効率な経営が改善されず税金補填が増加したり、サービスが向上しなくなる可能性があることです。

公営企業の問題点について筆者は詳しくありませんが、しっかりとチェックする仕組みを設ければある程度対策できる可能性も考えられます。また、欧州では同じ路線上に複数の事業者が車両を走らせて運賃を競い合っている等、市場原理導入による効率化も進んでおり、日本でも非効率な規制の改革やIT技術の導入等により効率化やサービス向上を早急に進める必要があると考えられます。

まとめ:公共交通改善だけでなく、車の費用を従量化して使用抑制を

車費用従量化案を提案し、公共交通運賃低減案を含めてメリット、デメリットを検討し、車費用従量化案のメリットが多いことを再認識しましたが、どちらか片方だけを実施するのではなく、両方を実施することでのみ、車使用を大幅に減らすことが出来ると言えます。

なお、公共交通の活性化策については以前より各地で数多く検討されており、国土交通省の「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」※20も2022年2月から行われていますが、やはり公共交通側だけの検討で車使用抑制については触れられておらず、大きな変化は期待できません。このため、車使用抑制(費用従量化)についても検討するように、国土交通省や委員等への意見送付や拡散等、皆様にもご協力いただけると幸いです。

参考文献

※1:JRおでかけネット きっぷのルール 幹線または地方交通線のみをご利用の場合

※2:e燃費 トヨタ ヤリス (ハイブリッド) HYBRID X / G / Z 1500cc(MXPH10)CVT FF

※3:PR TIMES 2021年 全国カーライフ実態調査(第1弾)~車の平均維持費と節約方法は?ほか(「2021年 全国カーライフ実態調査」より抜粋)

※4:自動車税30,500円/年、任意保険71,800円/年、自賠責保険20,010円/2年より算出。任意保険は損保ジャパン、45歳、通勤用途、免許ブルー、20等級、本人限定、車両保険あり

※5:上記に走行距離6,000km/年での燃料代34,026円/年を加算した146,411円/年を走行距離で割ると24.4円/km。点検整備費はカーコンカーリース 車の維持費は年間どれくらいかかる?内訳や維持費を安定させるための方法とはより30,000円/年。

※6:税理士ドットコム 「自動車「走行税」は本当に導入されるのか…警察が「課税逃れ」を確認する国も」

※7:川村学園女子大学研究紀要 第 26 巻 第 2 号 175 頁̶186 頁 2015 年 「わが国自動車重量税のさらなる問題点 ―軸重課税の提案と論点―」

※8:2020年発売のヤリスハイブリッドのWLTCモード燃費36.0km/LをJC08モードに換算すると43.5km/Lとなる一方、2010年発売のヴィッツ(ヤリスの旧名称)のJC08モードは21.8km/Lであり、ヤリスの燃料消費量はヴィッツに対し、21.8/43.5=50%(-50%)。WLTC→JC08への換算率は、2018年発売のプリウスの情報(WLTC:30.8、JC08:37.2)を利用。

※9:みんなの試作広場「自動車の部位別重量とその動向」

※10:Car&レジャー「エコカーの元祖 国産メーカーのハイブリッド車比率を調べてみた」 

※11:交通事故総合分析センター 第22回交通事故・調査分析研究発表会 「衝突被害軽減ブレーキ(AEB)の世代別効果分析」

※12:Car Watch「2021年の交通事故死者数は2636人で統計開始以来最小 前年から203人減少し5年連続で最少を更新」

※13:国土交通省「新車排ガス規制値の推移」より算出(現行値は規制値の75%減、試験モードの違いは非考慮)。

※14:東京都「2020年度(令和2年度) 大気汚染状況の測定結果について」

※15:東北大学 明日香壽川「大気汚染による死亡者数等の推計について」

※16:おとなの自動車保険「自動車保険の加入率はどのくらい?選ぶ際のポイントや加入のタイミングについても解説」

※17:国土交通省「ポール側面衝突基準(UN-R135関係)」

※18:SankeiBiz「自動車リサイクル 99%を達成」

※19:EnergyShift「EVは本当にCO2排出削減にならないのか?(前編) 〜欧州で検討中のLCA規制とは」

※20:国土交通省「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会について」

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