交差点での出会い頭や右直の重大事故が日常的に発生しています。また、事故にならなくても、隣の車線や交差する優先道路になかなか入れず、困ることはドライバーの皆さんもよくあるのではないかと思います。
なぜこのようなことが起きているのでしょうか?筆者は、片方の交通を優先として妨害を禁止する現状の交通ルール(以下、片方優先ルール)に問題があると考えます。本投稿では、この片方優先ルールの問題点と対策案について、ゼロから考えてみたいと思います。
現状の片方優先ルールとは
本稿で扱う片方優先ルールとは、下記に列記する車交通が交差や合流する様々な状況において、主に道幅が広い道路や直進車を優先とし、他方の車は優先車を妨害してはいけないという交通ルールのことです。
- 道路が交差する場合
- 道路外から道路に進入する場合
- 右折や転回時に反対車線を横断・合流したり、反対車線左折車に合流する場合
- 道路や車線が合流する場合
- 複数の車線がある道路で車線変更する場合
- 駐車車両を避けることにより反対車線にはみ出す場合
なお、道路交通法では、優先車が急減速等で回避する場合だけを「進行妨害」と定義している※1ため、それ以外の場合は妨害しても法律上は妨害でない、つまり優先車は優先ではないことになってるのですが、言葉の一般的な意味と法律上の定義が異なっており、交通教則※2にも「進行を妨げてはいけません」としか記載が無いため、ほぼ全ての運転者が、全く妨害してはいけないと認識していると思われます。
また、車線変更(進路変更)についても、法規上は優先車(進路変更先の車)が急減速等にならない限りは進路変更しても良い(つまり妨害しても良い)となっているのですが※3、ほとんどの運転者(最近までは筆者も)はこのことを知らず、優先車を全く妨害してはいけないと認識していると思われます。
このため、本記事では、ほとんどの運転者が認識している「優先車を全く妨害してはいけない」ということを、現状一般的な交通ルールとみなします。
片方優先ルールの問題点
片方優先ルールの問題点について、大きく分けても以下5点考えられ、それぞれについて詳細を説明します。
- 優先か否かを間違え易い
- 判断ミスした場合の被害が大きい
- ルールを遵守すると進めない
- 急発進・急加速せざるを得ない
- 渋滞を発生させる
優先か否かを間違え易い
道幅が同等で中央線が無い場合は「止まれ」の標識の有無だけ、標識が無い場合は道幅や中央線だけで優先か否かを判断する必要があり、信号等に比べると見落としの可能性が高くなると考えられます。また、優先側の道路が曲がっている場合等についても間違えやすくなります。
判断ミスした場合の被害が大きい
優先車は、非優先車が出てこないと思って、あるいは出てきた方が悪いと考えて、徐行せずに非優先車の直近を速い速度で進行するため、非優先車が優先か否かを間違えたり、優先車を見落としたり接近速度を見誤る等の判断ミスをしてしまった場合、速い速度で衝突し、衝撃や被害は当然大きくなります。
特に、交差点の信号が黄色から赤に変わるタイミングでは、優先の直進車は急いで通過しようとして加速したり、右折待ち車は直進車が止まると考えて右折を開始することがあり、重大事故の可能性が非常に高くなると考えられます。
もちろん、判断ミスをしなければ良いため、現在の交通安全活動では、ミスをしないようにしようという啓蒙活動が主に行われています。しかし、危険を伴う労働現場や、欠陥や操作ミスによって危険が生じる工業製品の設計等で採り入れられている安全工学の考え方では、人間は一定の割合で必ずミスをすることを前提として、ミスをしても人体に重大な被害が生じないような環境を構築することが原則となっています。
このため、判断ミスが発生しやすい場所を速い速度で走らせるという現状の交通ルールは、安全工学の原則に明らかに反しています。
ルールを遵守すると進めない
優先側道路や車線の交通量が多い場合等(渋滞を含む)において、交通ルールに従って優先車の交通を全く妨害しないようにすると、非優先車は半永久的に進行することが不可能になります。具体的な例を下記に示します。
- 非優先道路や道路外から優先道に交差・合流する場合や、右折や転回時に反対車線を横断・合流したり、反対車線左折車に合流する場合、優先車の間隔が十分に空かない限り、非優先車は進行できません。
- 道路や車線が合流する場合(高速道路入口等)や、複数の車線がある道路で車線変更する場合は、優先車の間隔が十分に空いていないと停車せざるを得ず、優先車との速度差が大きくなって、更に合流が困難になります。
- 優先車が来る方向が建物や停車車両等で見えない条件での交差・合流では、優先車の接近を確認できないため、優先車を妨害せずに優先道路内に進行することは困難です。特に、運転者から車両先端までが長い車や、全く不可能です。
- 優先車が右左折して非優先道路や道路外に進入する際、非優先車が優先道路直前まで進んでいると、優先車が右左折して非優先車とすれ違うためのスペースが確保できないことがあり、優先車の進行を妨害することになってしまいます。このため、優先車が非優先車のいる道路や出入口に進入して来ないことが確認できなければ、優先道路の直前まで進行することができなくなります。
上記のように多くの場面で交通ルールを守って走ることが困難であり、実際は、優先道路・車線にゆっくりと進入したり合図を出したりして優先車に譲ってもらい(妨害し)、交差・合流することが一般的に行われています。
このような、交通ルールと異なる曖昧な運用が行われているため、運転者それぞれで解釈が異なり、それによる事故の危険性や運転者同士のトラブル、ストレスが発生しています。例えば、車線変更時に隣車線の車が入れてくれると思ったら急に塞がれてぶつかりそうになったり、対向車が渋滞していて譲ってくれたので右折したらバイクがすり抜けて直進して来たりすることであり、皆さんも、運転中に何度も遭遇しているのではないかと思います。
また、開発が進んでいる自動運転車においても、スムーズに走行させるために交通ルールに反する動作を車の制御装置に行わせる必要があり、曖昧な交通ルールについて以前から数多く問題提起されているようです。
複数方向の安全確認が困難
複数方向の車両等を同時に確認する必要があるため、見落として衝突したり妨害する可能性が高くなります。実際の例を以下に示します。
- 優先道路に右折して合流したり、交差して直進したり、左折時に反対車線に自車がはみ出さざるを得ない場合、右方向の安全を確認後、左方向の車の途切れるタイミングに合わせて発進したら、右方向から車両が近づいていて衝突したり妨害してしまうことがあります。また、歩行者や自転車も接近していることがあります。
- 2車線以上ある道路で車線変更をしようとする際、隣の車線の車間を注視していると、前方の車両の減速を見落として追突することがあります。
人間は、同時に複数の方向を監視することができないため、進行方向と、優先車が来る複数の方向を同時に監視する必要が生じる現状の交通ルールは、人間の能力を超越していると言えます。
急発進・急加速せざるを得ない
優先側の交通量が多く、速く流れている場合、非優先車が優先車を妨害しないように合流・交差するためには、車列が切れる短い時間に合わせて急発進・急加速する必要があります。その際に、焦ったり周囲の安全確認が不十分になったりして、歩行者等を妨害したり見落としたりする可能性が高まると共に、衝突した場合には、車が急発進・急加速中であるために歩行者等に重大な傷害を与えることになります。特に、交差点右折後の横断歩行者との事故は、この要因が一因と考えられます。
このように、優先車を妨害しないという交通ルールを遵守することが逆に危険な状況を発生させることになっています。
渋滞を発生させる
優先側の交通量が多いと、非優先車はほとんど進行できずに流れが滞ります。特に、右折待ち車を避けるスペースの無い1車線の道では、たった1台の車が長い渋滞を引き起こすことがあります。このように、交通をスムーズに流すという点においても、非合理的なルールであると言えます。
また、このような渋滞の発生により運転者が苛立ち、優先車の直前で交差・合流したり、信号が赤になってから右折したりする等の危険な行為を増加させる要因にもなっていると考えられます。
対策:先着優先ルール
以上のように、現行の片方優先ルールは多くの問題を含んでおり、重大事故や交通トラブルの元凶となっています。この対策となる最適なルールをゼロから考えてみます。
全くルールの無い状態で車の進路が交差・合流する場合を考えると、最も自然で、双方の運転者が納得する方法は、交差場所に先に到着した車が先に進行すること(以下、先着優先)であり、この先着優先を原則とすべきです。
一方で、自分の進行により相手車両が急減速せざるを得なくなる状況(相手の直前への進入)や、自車の先方が詰まっていて相手車両の前で自車が停止する状況では、当然、相手を優先とする必要があります。
また、同時に交差場所に到着した場合、現状の法規では優先が無い交差点において左方優先(自分の左から来る車が優先)となっていますが、鋭角交差点においてトラック等の左後ろの視界が悪い車両では無理があるため、右方優先にすべきです。
上記をまとめると、下記のルールになります。
- 交差場所に先に到着した車が先に進行する(先着優先)
- 相手車両が急減速せざるを得なくなる状況では相手が優先
- 相手車両の前で自車が停止せざるを得なくなる状況では相手が優先
- 同時に交差場所に到着した場合は、自分の右方の車両が優先
実際の通行方法
上記の先着優先ルールを適用した場合の、各状況での通行方法は下記の通りになります。
- 信号のない交差点や、道路外からの進入、道路外への右折時は、道路幅や直進かどうかに関係なく、先に交差場所に着いた車が先に進行します。つまり、前方に交差・合流しようとする車が見えたら、急減速にならない限り必ず減速して先に行かせます。また、双方の交通量が多い場合は、交互に進行することになります。
- 信号があっても、右折や左折専用信号が無く、右折・転回車と対向車が交差・合流する場合は、上記と同じ方法となります。
- 車線変更や合流時は、先に進行している車が優先となります。合流される側(直進側)であっても、横の車が自車より前に進んでいて合流の意思を示していたら、急減速にならない限り譲る必要があります。なお、合流部の路面標示も変更する必要があり、これについては別記事に記載していますので参照ください(下記リンク)。
- 駐車車両により交互通行せざるを得ない場合では、反対車線にはみ出す側であっても、先にその場所に到着していれば優先となり、後から来た反対車線の車は待つことになります。
上記の通行方法は、現在でも譲り合いのマナーとして、特に渋滞時には一般的に実行されており、それを常時のルールとして明確化したものとも言えます。また、既述の通り、道路交通法上は急減速にならない限り優先車を妨害しても良いことになっており、法規に正しく従っているだけとも言えます。
また、現状でも優先が決められてない交差点もあり、そこでは先着優先が行われているため、それを全条件に拡張したと考えることもできます。
なお、欧州等で一般的な環状交差点(ラウンドアバウト)は、還道内を回る車両、つまり交差点に先に到着した車両が優先であり、類似の考え方であると言えます。
また、ラウンドアバウトは還道内車両が優先であるため、還道入口部分では右方優先になっており、同着時の右方優先と同様の考え方です(還道入口部分が常に還道優先、つまり片側優先であることは既述の問題があるため、この部分についても常時先着優先にすべきです)。
なお、ラウンドアバウト等の詳細については、下記に詳しく記載してますので、ご参照ください。
先着優先ルールのメリット
先着優先ルールのメリットは、下記7点が考えられ、それぞれについて詳細を説明します。
- 優先か否かを間違えにくい
- 判断ミスした場合の被害が小さい
- ルールが明確
- 確実に安全を確認できる
- 渋滞が発生しにくい
- 信号を減らせると共に、信号による事故が減る
- 横断歩行者妨害が減る
優先か否かを間違えにくい
標識や中央線の有無に依らず、先に到着した方が優先なので、間違えることが無くなります。ただし、相手車両が速い速度で近くに来ている時は相手が優先になりますので、その判断の違いは生じる可能性があります。
判断ミスした場合の被害が小さい
前方に交差・合流車が見えれば、直進車は必ず減速を準備することになるため、もし間違えて衝突しても被害は小さくなります。なお、衝突のエネルギーは速度の2乗に比例するため、例えば衝突速度が60km/hから30km/hに下がれば、衝突エネルギーは4分の1に低減されるため、乗員の傷害度合いも格段に低下し、車体の歩道などへの飛び出しも大幅に減ると考えられます。
なお、優先道路という考え方が無くなるため、小さな路地との交差点でも車が出てくる可能性を常に気にする必要が生じることで、車の流れが停滞することを懸念される人もいるかもしれませんが、広い路肩や歩道がある見通しの良い道路では、車が出て来ないことを遠くから確認できるため、問題は生じないと考えられます。
ルールが明確
現状のように交通ルールに反して各運転者が独自の判断をする必要が無くなるため、判断違いによる事故が防げると共に、合流等でもスムーズにストレスなく運転することが出来ます。また、自動運転車であっても、交通ルールに従えば、スムーズに通行することが出来るようになります。
確実に安全を確認できる
交差や合流する車であっても、先に到着していれば優先となり相手が止まってくれるので、相手車両の接近や間隔を気にすることなく、進行方向の安全だけをゆっくり確実に確認しながら、余裕を持って進行することができます。特に、運転に不慣れだったり、認知・運動能力が劣る運転者であっても、焦ることなく、安全優先で運転することができます。
渋滞が発生しにくい
交差・合流地点に到着した車から順番に通行できるため、信号が無い、又は右折信号が無い場所で、片方だけが長時間停止・渋滞することが発生しなくなります。特に、右折待ち車を避けるスペースの無い場所では改善効果が大きいと考えられます。
また、詳細は次項に述べますが、信号(又は右折信号)の廃止が出来れば、車が左右ら来ないのに無駄に赤信号で停止するという状況が発生しなくなり、渋滞が少なくなると考えられます。
なお、信号が無い交差点では、現状で非優先となっている側の車の流れが増える分、現状で優先となっている方の流れは減少するため、右折待ち車に完全に流れを止められる場合以外では、全体としての通過最大量は大きく変わらないと思われます。
信号を減らせると共に、信号による事故が減る
交通量があまり多くない交差点では、信号が無くても先着順に秩序を保って通行できるため、信号が不要になると考えられます。それにより、信号の維持管理費用を節約できます。
また、信号のある交通量が多い交差点でも、右折と対向直進・左折は交互に通行できるため、右折信号は不要になります。ただし、車線が複数あって交通量が多い場所は、左側車線から右折待ち車が見えにくいため、右折信号が合った方が良いかもしれません。また、歩車分離を目的に右折信号を設けている場合は、別途検討が必要です。
さらに、信号が無くなることにより、車および並行する歩行者の信号が共に青になることによる歩車交錯による事故が無くなります。なお、歩車交錯を防ぐために、歩車分離信号の普及推進が20年以上前から行われていますが、渋滞悪化などの理由により普及は進んでいないため、信号を無くすことも検討すべきです。
また、信号が無くなることにより、信号無視による事故も無くなります。日本では交通事故で死亡した歩行者の70%が信号無視や横断違反などの違反を犯している※4ことや、運転者と歩行者の双方が相手を注意するようになるため、信号が減ることにより、歩行者事故死傷者も減ると考えられます。
なお、信号が無くなることによる効果は、既述の別投稿に詳しく記載していますので、ご参照ください。
横断歩行者の妨害が減る
本投稿で提案している先着優先ルールは車同士に関するものですが、横断歩行者に対しては、現状でも横断しようとしている歩行者を発見したら車は止まる必要があり、車同士の先着優先ルールと同様の動きです。つまり、現状では、横断対象が車か人かによって譲るか否かが異なり、間違えやすいと考えられます。このため、車同士の先着優先ルールを導入すれば、車か人かを問わず、全ての進路進入対象に対して譲るルールとなるため、横断歩行者の妨害が減る可能性が考えられます。
なお、横断歩道が無い場所では道路を横断してはいけない、または、車が優先であると、マスコミや警察等も含め、一般に吹聴されていますが、道路交通法では、横断禁止の標識が無い限りどこでも横断可能であり、高齢者等は車より優先となっています。これについては、以下にまとめていますのでご参照下さい。
以上のことから、法規上は、対象(人や車等)や場所(交差点や横断歩道か否か)を問わず、全ての場合において、先着優先の考え方になっていると言えます。
まとめ
重大事故や日常の運転時の困る場面の原因探求から、交通ルールの問題点を検討し、先着優先のルールを提案しました。本提案を実際に実施するのには、他にも様々な検討が必要と思われますが、重大事故の減少等、非常にメリットが大きいと考えられますので、関係者の方には是非ご検討頂きたいと思います。
参考文献
※1:e-gov 法令検索 道路交通法 第二条二十二 進行妨害 車両等が、進行を継続し、又は始めた場合においては危険を防止するため他の車両等がその速度又は方向を急に変更しなければならないこととなるおそれがあるときに、その進行を継続し、又は始めることをいう。
第三十六条2 車両等は、交通整理の行なわれていない交差点においては、その通行している道路が優先道路(道路標識等により優先道路として指定されているもの及び当該交差点において当該道路における車両の通行を規制する道路標識等による中央線又は車両通行帯が設けられている道路をいう。以下同じ。)である場合を除き、交差道路が優先道路であるとき、又はその通行している道路の幅員よりも交差道路の幅員が明らかに広いものであるときは、当該交差道路を通行する車両等の進行妨害をしてはならない。
第三十七条 車両等は、交差点で右折する場合において、当該交差点において直進し、又は左折しようとする車両等があるときは、当該車両等の進行妨害をしてはならない。
※2:交通の方法に関する教則 第5章 第7節 3 (1) 交差する道路が優先道路であるときやその幅が広いときは、徐行するとともに、交差する道路を通行する車や路面電車の進行を妨げてはいけません。
※3:e-gov 法令検索 道路交通法 第二十六条の二 2 車両は、進路を変更した場合にその変更した後の進路と同一の進路を後方から進行してくる車両等の速度又は方向を急に変更させることとなるおそれがあるときは、進路を変更してはならない。