生活道路で速度を出す車や、自転車のすぐ近くを勢いよく過ぎていく車、横断者を妨害する車が多く見られ、車同士の事故も頻繁に起きています。それにより、交通事故による死傷者数は重傷以上だけでも年間約3万人にもなっており、日々多くの人が死傷し続けています。
これらの対策として、安全運転の呼びかけや取り締まりの強化、運転者の教育、道路の改善等、様々な方策が検討されていますが、呼びかけだけで行動を変える人は多くないという現実があり、全運転者に高頻度で定期的な教育をすることもハードルが高いと思われます。
道路の改善についても、例えばゾーン30プラスやトランジットモール(一般車の進入制限)、分離された自転車道等、いくつかの改善策が一部で導入されていますが、効果が限定的であったり、道路拡幅が必要、車ユーザーの合意が難しい等、あらゆる道路に早急に普及させるのは困難であるという問題があります。
このため、早期実現性が高く、あらゆる場所に迅速に適用できる安全対策の導入が急務であると考えられるため、以下に提案します。
現状の道路の問題点
現状の道路には多くの安全上の問題があると考えられ、主な4つを下記に列記します。
路側帯が狭い、無い
路側帯の線がある場合、その線は車の幅を基準に引かれていることが多く、道路幅が狭かったり電柱等がある場所では路側帯が非常に狭くなっています。
これにより、歩行者は路側帯からはみ出して通行せざるを得ない一方、車の運転者は、線の内側を車が通る場所であって歩行者や自転車は侵入してこない、そして侵入してくる人が悪いと誤認する可能性が高いため、事故の危険性を高めています。
また、路側帯の線が無い場合も、車の運転者は道路幅全体が車の通る場所のように誤認する可能性があり、線がある場合と同様の危険があります。
さらに、車はキープレフトのルールがあることや対向車が来ることを考慮して、路側帯の線に沿って左寄りを走ることが多いですが、左寄りを走ることは歩行者や自転車に接近したり飛び出しへの対応が困難になるため、危険性が増大します。特に中央線があったり中央線がオレンジ色である場合(はみ出し禁止)は、それが車を左に寄せており、危険性をさらに高めています。
自転車と車が近接している
自転車レーンが無い場所は言うまでもありませんが、自転車レーンがある場合でも道幅に余裕があっても、車のレーンと敢えて近接させていることが非常に多く見られます。これにより、上り坂、自転車運転者が子供や高齢者の場合、子供や重い荷物を載せている場合、路面に凸凹がある場合等により自転車がふらついたり、転倒したり、大型車に追い越される場合は、接触したりひかれる危険性が非常に高くなっています。
そして、このような路面標示に従って、多くの車の運転者は自転車と間隔を取らずに追い抜くことが正しいことであるように誤認させられています。さらに、駐車車両が自転車レーンを塞いでいることが頻繁に発生しています。
なお、海外では車で自転車を追い越す場合に1.5mの間隔を保つことを義務付けている国が多く、日本でも同様の間隔が推奨されていると共に、間隔が少ないことによる事故で責任を問われたり1、自転車が転倒して車に轢かれる事故がしばしば起きています。
また、自転車用の矢羽根マークについても、車より速度が遅く弱者である自転車が車より優先されるべきにもかかわらず、マークの塗装面積が小さく不連続であるため、車の運転者が自転車の方が立場が下であるかのように誤認する可能性があります。つまり、自転車を自分の通行路に侵入してくる邪魔者のように考えてイライラしたり、間隔を開けずに強引に追い越しを行うことが考えられます。また、矢羽根マークを見て、自転車と車との間隔を取る必要性を認識することは困難です。
横断歩道が歩行者優先であると認識しにくい
信号の無い横断歩道で、横断しようとする人がいるにもかかわらず車が止まらないことがありますが、この一因として、現状の路面標示からは、歩行者が横断するかもしれない、車が止まらなくてはならないというイメージが直観的に沸きにくいためと思われます。つまり、横断歩道は「歩道」であるにもかかわらず、路面標示が歩道と連続していないことや、飛び石のように間欠的に描かれていること、線が車の進行方向に向いていることから、歩道ではなく車が通る場所であるという印象を強く受けます。
横断歩道がない場所で横断して良いか分からない
道路交通法では、横断歩道が無くても横断禁止標識が無ければ横断可能であり、特に交差点では歩行者優先で横断できることが明確に規定されています2。なお、交差点とは、細い路地や歩行者専用道路等も含めた全ての道路が交わる場所を指します。
しかし、現状では横断歩道が無いと横断してはいけないと誤解している人が多いため、横断者がいるのに車が止まらず強引に通過していく確率が横断歩道よりも圧倒的に高いと共に、車が速度を出しやすくなっています。
このような誤解が広がっている原因は、法規上、横断できる場所であるにもかかわらず横断歩道が無い場所が多く、横断できるということが認識できないためです。
なお、横断歩道が無くても横断できることについては、下記に詳しく記載していますので、ご参照ください。
優先車が非優先車に進行妨害される可能性を認識しにくい
車同士が交差・合流する場合、道路交通法においては非優先車は優先車の進行妨害をしてはいけないことが規定されていますが、この「進行妨害」とは、優先車が速度又は方向を「急に」変更する場合と定義されています3。
つまり、走行する優先車の直前に割り込まなければ、非優先車が優先車を妨害しても良く、優先車は絶対的に優先というわけではありません。このため、非優先車が優先車の進路に入ってきたら優先車は減速や停止して譲る必要があり、それを予測して走行することが求められます。もし優先車が絶対優先であるとすると、優先車の間隔が大きく開かない限り非優先車は半永久的に進行できず、実際においても交通量が多い場合は譲り合って通行することが一般的に実施されています。
しかし、路面標示は優先車の進路だけを表示していることが一般的であるため、また、教習所で使われている交通教則の表記も法規と異なり、優先車が絶対優先であるような表現であるため4、多くの運転者は、優先車は絶対的に優先で、少しでも妨害することはルール違反であるかのように誤解しています。そして、この誤解が優先車運転者の注意力を低下させて速度を出させたり、非優先車運転者の焦りや確認不足に繋がり、右直事故や、右折後に横断歩行者と衝突する重大事故の危険性を増大させています。
なお、このような片側だけが絶対優先であるかのようなルールの問題点については、下記に詳しく記載していますので、ご参照ください。
ゾーン30プラスの問題点
次に、近年一部で導入されているゾーン30プラスについて、以下に挙げる多くの問題があるため、効果が限定的であると共に、あらゆる場所に早期普及させることは困難であると考えられます。なお、ゾーン30プラスは、指定した区域内全域において車の最高速度を30km/hに制限すると共に、通過交通の抑制や、ハンプ、狭さく、シケイン等により速度抑制対策を行っている区域のことで、全国で66か所整備されています(2023年3月末時点)5。
- 制限速度標識は間欠的な標示であることや、設置位置が高いことから、路面標示に比べて見落とす可能性が高い。また、周囲への注視が特に要求される生活道路では、運転者が頻繁に速度計を確認することは困難。
- 最高速度制限を規定しても、頻繁な速度取り締まりを行わない限り、運転者に制限を遵守する動機が生じない。
- 速度30km/hは歩行者や自転車のすぐ近くや見通しの悪い場所において速過ぎるが、常に30km/hを出しても良いと運転者が誤解する可能性がある。
- 運転者がハンプに気を取られて、周囲への注意が散漫になる可能性がある。
- ハンプが無い場所(ハンプの間)では、車が速度を上げる可能性が高い。
- 横断歩道がハンプになっていても、横断歩道が無い場所を歩行者が横断する場合には効果が無い。
- シケインや狭さくは幅が広い車以外には効果が少ないと共に、自転車の通行の障害になったり、自転車が車と交錯する可能性が高まる。このため、設置が道路の幅に余裕がある場所に限定される。
- 車がハンプを通過する際に騒音が発生することがあるため、住民の合意が難しい。
以上の問題をまとめると、現状の道路は路面標示が車優先で交通ルール等と合致しておらず危険であり、ゾーン30プラスは効果が少ないと共に早期に広く普及させることも難しいということです。
対策案
これらの対策として、交通ルール等に合致した路面標示や道路内のレイアウトにすることを提案します。つまり、車より歩行者・自転車優先で、横断歩道は歩行者優先、交差点はどこでも横断可、優先車も妨害可であること等を、誰もが容易に認識できルールが自然に守られる道路です。
なお、路面標示や道路内レイアウトを変更するだけであれば、比較的コストが安く、交通容量を減らしたりしなければ車ユーザーの理解も得やすいため、早期に広く普及させることが可能であると考えられます。
また、このようにデザインで行動を変えさせる手法は行動デザイン(ナッジ)と呼ばれ、人間の心理的な癖を利用して行動に影響を与える手法6として、近年様々な分野で効果を上げています。
具体例を以下に示します。
路側帯が狭い・無い道路
歩行者と自転車の通行帯を優先して確保する
道路は歩行者や自転車が優先であるので、車が通行する幅で白線を引くのではなく、歩行者と自転車が安全に通行できる幅の通行帯を優先して確保し標示します。車が双方向で通行する幅が取れない場合は中央線は消去します。これにより、車の運転者は、歩行者・自転車のための道路であることを認識し、道路中央付近を徐行して走行する可能性が高くなると考えられます。これにより、飛び出しを含む歩行者や自転車との接触の可能性が低くなると共に、接触した場合の被害も小さくなります。
なお、車が中央を走ることにより対向車との衝突の可能性は増加しますが、対歩行者や自転車の方が衝突時の人的被害が圧倒的に大きいことや、対向車を避けるために速度を落とすことになるため、総合的には確実に安全性が向上すると言えます。
自転車通行場所
植栽や中央分離帯を狭くして自転車レーン・車道間の間隔を設ける
自転車レーンと車道の間に間隔を設ける方法として、植栽等の幅に余裕がある場所や中央線をゼブラゾーン等で広くしている場所、中央分離帯が広い場所も多く、この場合はレイアウトを変えるだけで容易に実現できます。なお、中央分離帯は交差点で非常に危険性の高い転回が必要となるので、市街地では無い方が安全であると考えられます(特に片側1車線)。
また、自転車レーンと車道との境に柵を設置することも、駐車車両侵入防止を含めて安全性が向上できますが、道路外への出入口部分は柵を設置できないため、間隔を確保することも併せて必要と考えられます。
電柱や植栽を自転車レーンと入れ替える
次に、道路幅に余裕が無い場所でも、電柱や植栽のスペースと自転車レーンの位置を入れ替えて移設すれば、自転車レーンと車道の間隔を開けることが可能です。なお、電柱や植栽はある程度まとめて間欠的に設置できるため、間を駐輪スペースや荷捌き駐停車スペースとして使用でき、歩行者や車の通行の障害になることを防止できると考えられます。
車の通路幅が取れなくても自転車レーンを標示する
自転車レーンの幅が確保できない場所についても、車道内では、車より速度が遅く弱者である自転車が優先されるべき、つまり、車の走行場所であることよりも、自転車が走行する場所であるということを優先的に認識できるようにすべきであるため、車の通路幅が取れなくても、車道の中に自転車レーンを必ず標示すべきです。さらに、自転車追い越し時の間隔確保の必要性を認識させるために、自転車レーンの横にゼブラレーンを設ければ良いと考えられます。
駐車車両で塞がれてる車線を有効活用する
片側に複数の車線がある幹線道路では、駐車車両を避けるために隣の車線に合流せざるを得ないことが多くありますが、この状況では、駐車車両がある場所がボトルネックとなり、交通容量は左端車線が無い場合とほぼ同じと考えられます。また、駐車車両は荷捌きや乗降等、やむを得ない理由があって駐停車しており、完全に無くすことは現実的に困難であると共に、沿道施設の利便性を損ないます。
このため、車線数を減らして正式な荷捌き場等を設けることが妥当であり、それにより、電柱や植栽等を荷捌き場等の間に配置することができるため、自転車レーンのスペースを捻出することができます。また、自転車の利用者が増えることが考えられるため、駐輪場等に使用することも良いと思います。
このように車線を減らして自転車レーンや駐輪場を設けることは、一見、渋滞が悪化して車利用者の理解が得られないように思われますが、実際には渋滞は増えず、車も自転車も安全に通行できるようになるため、しっかりと説明すれば受け入れられると考えられます。
横断歩道
歩道から連続的に線を引く
横断歩道はその名の通り「歩道」であり、車が通る場所であることよりも、歩行者が通行する場所であること、つまり歩道の一部であることが明確に認識されるようにすべきです。つまり、通常の歩道や路側帯から連続的に線を引くと共に、車の走行場所を示す線は点線として簡素化することが妥当だと言えます。また、横断歩道の境界線として、歩道の縁石と同様のブロックを段差無く埋め込むことも、より歩道として認識しやすくなると共に、塗装のように摩耗して見えなくなることがないため、より良いと考えられます。
全ての交差点に横断歩道を設ける
法規上は、細い路地との交差部を含む全ての交差点において歩行者優先で横断できることから(横断禁止場所を除く)、それが明確にわかるように、横断禁止でない全ての交差点に横断歩道を設けるべきです。また、交差点以外でも横断ニーズがある場所は横断歩道を設けるべきです。これにより、車の運転者に歩行者横断の可能性を確実に知らせることができ、注意を促すことができると考えられます。
非優先車の進路
非優先車の進路を表示する
非優先車が優先車の前に交差・合流することがあるということを認識しやすくするため、交差点に非優先車の進路を点線で表示すると共に、「ゆずりあい」等の標識を設けることが考えられます。これにより、優先車の運転者は非優先車が進路に進入して来る可能性を認識し、非優先車に注意して進行するようになります。
法規や教本の表記を修正する
なお、法規上の「進行妨害」の言葉の定義が一般常識とかけ離れており、速度又は方向を急に変更しなければならないこととなる場合だけに限定されていることが容易に理解できないことや、交通教本が法規と異なる記載(「優先車の進行を妨げてはいけません」のみ)になっていることについても、正しい表現への変更が必要です。
つまり、現行法規の「○○する車両等の進行妨害をしてはならない」という言葉は、「○○する車両等が速度又は方向を急に変更しなければならなくなるような進行妨害をしてはならない」に変更すべきです。
交通教本についても、例えば「優先車の進行を妨げてはいけません」を、「優先車が急ブレーキや急ハンドルとなるような進行妨害をしてはいけません」等に変更すべきです。
結言
現状の道路は安全上の問題が多く、ゾーン30プラスは効果や広域普及に課題があるため、早期実現性と効果が比較的高いと考えられる、路面標示や道路内レイアウトを変更する改善案を提案しました。
なお、現状を早期に変えるには、警察や行政等に数多くの人の意見を繰り返し伝えていくことが必要だと思いますので、ご賛同いただける方はご協力いただけると幸いです。
参考文献
- ロードバイクが欲しい!初心者向けナビ「自転車への側方間隔はどれくらい空けるべき?判例を検討。」 ↩︎
- e-gov 法令検索 道路交通法
第三十八条の二 車両等は、交差点又はその直近で横断歩道の設けられていない場所において歩行者が道路を横断しているときは、その歩行者の通行を妨げてはならない。 ↩︎ - e-gov 法令検索 道路交通法
第二条二十二 進行妨害 車両等が、進行を継続し、又は始めた場合においては危険を防止するため他の車両等がその速度又は方向を急に変更しなければならないこととなるおそれがあるときに、その進行を継続し、又は始めることをいう。 ↩︎ - 交通の方法に関する教則
第5章 第7節 2 (5) 右折しようとする場合に、その交差点で直進か左折をする車や路面電車があるときは、自分の車が先に交差点に入つていても、その進行を妨げてはいけません。
第5章 第7節 3 (1) 交差する道路が優先道路であるときやその幅が広いときは、徐行するとともに、交差する道路を通行する車や路面電車の進行を妨げてはいけません。 ↩︎ - 警察庁「生活道路におけるゾーン対策 「ゾーン30」「ゾーン30プラス」の概要」 ↩︎
- 横浜市行動 デザインチーム YBiT「行動デザインとは」 ↩︎