車と戦える公共交通の提案

リスボンのトラム交通

自家用車の過度な依存は、交通事故、公共交通の衰退、温室効果ガス増加、渋滞、大気汚染や運動不足による健康悪化、都市の拡散によるインフラコスト増大等、様々な深刻な影響を長年にわたり社会に与え続けており、公共交通への転換が急務であると以前より言われています。

しかし、大都市部以外の公共交通は衰退が止まらず、益々、車依存の社会が進行している現状です。

なぜ、私達は車を選ぶのでしょうか?

公共交通は使用時コストと所要時間が劣っている

私達が交通手段を選ぶ際は、主に使用時のコストと所要時間を比べて、安くて早い方を選ぶと思います。
都心部以外では、現状では使用時コストも所要時間も車の方が圧倒的に有利な場合が多いため、当然、大多数の人が車を選ぶことになります。

この現状を変えて公共交通への転換を進めるためには、使用時コストと所要時間の競争力で公共交通が上回ることが必要です。使用時コストについては以下の投稿に記載していますので参照下さい。

公共交通の所要時間についても多くの改善余地があると考えられ、本稿で車と戦える公共交通を提案したいと思います。また、公共交通の維持、発展のためには収益性の向上も併せて必要であるため、これについての改善案も後述します。

速達性を改善する6つの場面

公共交通使用時の所要時間(速達性)を車同等に改善するには、以下6つの場面での改善が考えられます。

  • 信号や歩行者横断待ち(バス、路面電車)
  • 渋滞(バス)
  • 乗降時間(バス、路面電車)
  • 発進時の着席待ち(バス)
  • 乗り換え
  • ラストワンマイル

信号や歩行者横断の待ち時間の解消

バスや路面電車は信号等で止まることが多く、路面電車の運行時間の31%が信号待ちとのデータがあります※1。この対策として公共交通優先信号が導入されている場所もありますが、ごく一部の区間に限られており、その理由は、一般車への影響を憂慮しているためと推測されます。

しかし、公共交通と一般車について道路上の優先度を考えてみると、冒頭に挙げた様々な面で公共交通の方が圧倒的に優れているため、全ての営業区間において最優先で通行させることが妥当だと考えられます。また、歩行者に対しても公共交通車両を優先させる方が、より多くの人が速く移動できるという点で公共の利益になると考えられます。

つまり、バス、路面電車の全ての区間について公共交通優先信号を導入し、横断歩道についても公共交通優先とし、バス優先レーン導入と併せて、停留所以外は一切停止せずに走行すれば大幅な時間短縮が可能です。なお、一般の鉄道の踏切や道路併用区間は本提案と同じ様に車や歩行者に対して完全優先であり、本提案はバスや路面電車を一般鉄道と同様の扱いにしたものと言えます。

また、公共交通と交差する交通の信号について、公共交通接近時に赤点滅(一時停止)にすることで、公共交通車両通過前後の待ち時間を最小化することができます。

なお、本稿の提案により公共交通の利便性が向上すれば、車を使う人が減るために渋滞は悪化しないと考えられます。

また、公共交通優先信号や優先レーンの必要性については、下記に詳しく書いていますので、ご参照ください。

渋滞の回避

バスや一部の路面電車では渋滞に巻き込まれることが多く、渋滞対策としてバス優先や専用レーンが導入されている場所がありますが、これも一部に限られています。この理由として、前項と同じく一般車への影響が大きいことと、道路が狭くてバスレーンが設けられないことが考えられます。

道路が狭いことは対策が難しいですが、往復1車線ずつの道路でも路肩のスペースがあれば、往復車線の中央に両方向走行できるバス優先レーンを設け、バスが近づいた時はバス接近表示機で両車線の車に知らせて路肩に寄せ、バスレーンを空けることが考えられます。鉄道や路面電車では同様の場所があります(例:江ノ島電鉄の腰越~江ノ島間)。

また、渋滞区間が長くない場所では、反対車線をバス優先レーンとし、その入り口の信号をバス接近時に赤にして一般車を止めることも考えられます。なお、路面電車において類似の形態の場所がありますが(例:とさでん交通の曙町東町付近)、この写真の場所は渋滞回避が目的ではなく線路が単線であるためにこのような形になっており、車の正面から電車が近づいて来たら車は反対車線に避けます。

反対車線を通るバスレーンの図。
反対車線を通るバスレーンの案(筆者作成)

なお、上記のように一時的に一般車の通行を制限する場合、バスの運行頻度が非常に高いと一般車が殆ど通行できなくなってしまうため、その区間のバスを輸送力が大きい連接バスや路面電車等に置き換えて運行頻度を抑えることで、一般車の通行を確保できると共に、必要な運転手の数が減ることによるコスト低減も可能と考えられます。なお、それにより乗り換えが発生することになりますが、乗り継ぎを考慮したダイヤにして乗り換えを最短距離で行えば、都市鉄道での各停と快速等との乗り継ぎのように、それほど不便にはならないと思われます。

また、ヨーロッパの旧市街等で観光用としても利用されている車幅の狭いロードトレイン(下記写真)を導入すれば、輸送力を確保しつつ、狭い道でもバスレーンを設けることが可能と考えられます。

また、路面電車は広い道路に敷設することが多いですが、内輪差が無いことで曲線部での必要幅がバスよりも少ないため、狭い屈曲路に敷設して車幅の狭い車両を走らせ、路面電車優先としている場所もあります(下記写真)。

また、バスと路面電車が並走している区間では、路面電車の軌道内にバスを走らせ、停留所も共用している場所も海外では数多くあります(下記写真)。そもそも、路面電車とバスは利用者からすれば大きな差は無く、道路内で別々の場所を走らせる必要性は全く無いため、道路渋滞の抑制と乗り換え時間の短縮のため、共用を原則とすべきです。日本では、バスと路面電車の競合が問題になることが多いですが、利用者からすれば本当に無意味なことであり、自家用車に対する競争力向上という共通の目標に対して各事業者が協力することが必要だと思います。

また、道路交通が非常に集中するエリア内については、一般車の乗り入れを制限し、車利用者はエリア周辺部で公共交通に乗り換えさせるトランジットモールが海外の都市では数多くあり※2、日本も導入を促進するべきです。

なお、近年導入が検討されている自動運転バス等も、上記のように完全優先にして他の交通に全く妨害されないようにすれば、駐車車両を避けたり優先車を待つ等の難しい対応を排除でき、実用化が容易になると考えられます。実際、一般道の一部区間を信号で制限して自動運転バスを通行させている場所もあります(例:秋田県上小阿仁村※3)。

乗降時間の短縮

駅や停留所での乗降時、路面電車やバス、一部の地方鉄道では、運転手が運賃授受確認を行うため、乗降口が一つに限られていたり、降車後に車両端まで行く必要があり、時間がかかっています。この対策として、車両の全ての出入口や停留所にICカード読み取り機等を設置し、乗客各自が料金支払いを行う信用乗車方式が欧州等では広く普及していますが、不正乗車を防げないため、国内では非常に少ないようです※4

しかし、公共交通はその名の通り公的なインフラであるため、ごく少数の人のために大多数の人の利便性が制限されることは非合理的であり、乗降時間短縮を最優先として信用乗車を全ての公共交通で採用すると共に、不正乗車の対策や損失は税金で補填することが妥当だと考えられます。他の例で言えば、一般の商店や飲食店の出入口に改札は無く、客各自が自主的にレジに行って支払いを行っていることが挙げられ、日本の公共交通だけが昔の特権意識のようなものを引き継いでいて、むしろ特殊であると言えます。

また、信用乗車では全ての出入口から乗降でき、車内移動も不要であるため、出入口の数を増やして更に乗降時間を短縮したり、編成を長くして乗車定員を増やすことも可能で、バリアフリー性能も高いため、非常にメリットが大きいと言えます。

運賃授受以外の問題点として、現状のバスの多くは車椅子の乗降時に運転手がスロープをセットして介助する時間がかかっており、ベビーカーも出入口や歩道の段差により時間がかかることがあります。この対策として、渡り板が毎回自動的に出てくるバス(例:ブラジル・クリチバのBRT※5)や、歩道を乗降口の高さに合わせると共に隙間を少なくして停車させる正着技術(例:日本道路 Plus Stop縁石※6)を導入することで、時間短縮とバリアフリー化を図ることができます。

発進時の着席待ち時間の解消

現状では、乗客が着席するまで発進を待つことが多いですが、この理由は、発進加速時の駆動力の変動により乗客が転倒することを防ぐためと考えられます。この待ち時間を解消する方法として、駆動力の変化を車両制御で抑制して滑らかに発進・加速させることが考えられます。特に、電動車であれば高精度な制御が可能であり、CO2削減のためにも、電動車の普及を早急に進めるべきだと思います。

乗り換え時間の短縮

駅によっては、バスや路面電車、自転車等から鉄道に乗り換える際の歩行距離が非常に長い場合があります。例えば、筆者がよく使用する横浜市営地下鉄のセンター南駅は、ニュータウン内に計画的に作られたそれほど大きくない駅にも関わらず、1番遠いバス停から駅のホームまで徒歩で約5分30秒かかります。高齢者や子供、障害者等の人は更に多くの時間と労力がかかり、特に悪天候や酷暑、極寒時は大変な苦労を強いる状況になっています。この原因と対策案として以下3点が考えられます。

乗り換え距離が長い1つ目の原因は、バス停(ロータリー)が駅舎から離れていることです。この理由は、駅直近にパチンコ屋等の商業施設等を設けるためと推測されますが、駅の本来の役割は鉄道と他の交通手段とを乗り換える場所であり、商業施設を優先して鉄道利用者が不便になることは本末転倒です。このため、バス停をホーム直下等の最短距離の場所に設置すべきです。なお、現状のホーム直下の歩行者通路は趣味サークルの展示等に使われ、歩行者の通行も大きく妨害されています。

乗り換え距離が長い2つ目の原因は、タクシー乗り場や全てのバス停が一つの歩道に直列に並んで設置されているためです。このようなレイアウトになっている理由は車両と歩行者を交差させないためと推測されますが、横断歩道以外は横断できないように高い柵を設けたり、横断歩道にバス接近警報機等を付けてバス優先にすれば安全性とバスの速達性を確保できるため、バス乗り場を並列に並べる等一般的な配置にすることで、乗り換え距離を最小化できると考えられます。

乗り換え距離が長い3つ目の原因は、バス停が1階、ホームが2階にあるのにもかかわらず改札が3階にあることです(構内図の水色矢印)。このような配置になっている理由は、駅周辺の地形が傾斜地であることにより正面出入口が3階付近にあるためと推測されますが、改札を1つにする必要は無いため、バス停とホームを直結する通路と改札を新設することで歩行距離を大幅に短縮できます(構内図の燈色矢印)。他の駅でも、ホームへの出入口と改札を新設することで、バス停や周辺施設への利便性が大幅に向上する場所は多数あると考えられます。

また、センター南駅は駐輪場も遠く、一番奥からホームまで徒歩で約5分10秒かかります。また、駅周辺の全ての空きスペースは駐輪禁止になっており、毎日、警備員が違法駐輪を監視し、無骨なバリゲードが多数設置されています。このように不便かつ税金の浪費状態になっている理由は、バス停と同様に商業施設を優先すると共に、駐輪自転車が美観を損ねるために排除するという旧態依然の考えが行政にあると思われます。一方、車の使用抑制のために自転車の使用を強く促進させている都市が多い欧州等では、歩道や車道上に無料の駐輪場を設置することが一般的となっているため、歩行に支障の無い場所に整然と区切って駐輪させれば全く問題無いと言えます。このため、ホームからの歩行距離が最も短く、歩行の支障にならないあらゆる場所に商業施設の代わりに無料駐輪場を設置することで、自転車から鉄道に乗り換える時間の大幅な短縮と監視員費用の削減、更には商業施設への自転車アクセス性向上とそれによる売上増加が可能となります。

また、鉄道駅周辺の駐輪場が不足する場合は、駅に乗り入れるバスや路面電車の途中の停留所近くにも駐輪場を設置し、後述する短距離運賃の低減を行うことで、駐輪する自転車を分散させることが可能となると共に、バスや路面電車の利用者数の増加に繋がります。

やむを得ず停留所や駐輪場からホームまでの距離が遠い場合は、途中で増速する動く歩道※7を設置する等、時間短縮と労力削減の改善を行うことが必要です。

また、エスカレーターについても歩行は禁止すべきとの意見がありますが、幅を広くする※8、又は狭い物を2本設置して片方は歩行専用とし、また段差も低くする等、安全性を固定階段と同等に向上させれば歩行を禁止する必要性は無くなり、乗り換え時間を短縮できるため、歩行を前提として整備すべきだと考えられます。

踏切の安全性向上

鉄道線路を横断して乗り換える場合、陸橋や地下通路よりも踏切の方が距離が短くて済みますが、現状の踏切は安全性に問題があり、2020年では173件の事故と124人の死傷者が発生している※9ため、新設は禁止されています。このため、以下6点の改善を行って安全性を確保することで、運行頻度が高くない駅においては、踏切を新設して乗り換え時間を短縮できると考えられます。

踏切改善の1つ目は、障害物検知機の高精度化です。現状では、踏切内に取り残された人を確実に検知できる検知機が少ないことが国会でも取り上げられており※10、設置を促進する必要があります。なお、AIによる画像解析を使用した低コストのシステム※11も開発されています。

踏切改善の2つ目は、異常検知時のブレーキ自動化です。現状の多くの踏切では、障害物や非常ボタン等の異常を検知すると専用の信号が点滅し、それを列車の運転士が目視して手動でブレーキ操作を行っていることにより、判断遅れ等の人為ミスが発生する可能性が高くなっています※12。このため、異常検知したら完全自動でブレーキをかけるシステムの普及を早急に進める必要があります。このシステムは小田急線※13で既に採用されているようです。

踏切改善の3つ目は、レールの溝対策です。車椅子等の車輪がレールの溝にはまって移動困難になることを防ぐために、重量の大きい鉄道車輪の通過時にだけ凹む弾性部品で溝を塞ぐことが有効です。このような部品は様々なものが開発されており、早急に普及させるべきです。

踏切改善の4つ目は、脱輪対策です。踏切は短時間に多くの人が通行するにも関わらず、路面の幅が踏切以外の場所より狭くなっていたり、端が急激に落ちていることが多く、車椅子等が路外に脱輪することがあります。この対策として、路面の幅を十分に広げると共に、路面の外側になだらかな傾斜を付けることが考えられます。以前から脱輪事故は頻繁に発生しているのにもかかわらずこの様な容易な対策が行われていないのは、行政の明らかな怠慢だと思います。

踏切改善の5つ目は、横断距離の最短化です。現状では線路を斜めに横断している踏切が多くあり、横断距離が長くなって歩行者が渡り切れなかったり、レールの溝に車椅子等のタイヤが嵌り易くなるため、横断部分を直角に近づけることが有効です。歩道だけを直角に変更する場合は必要な用地が非常に少なく、立体交差等に比べると圧倒的に実施が容易だと考えられます。

踏切改善の6つ目は、進入対策です。遮断機をくぐって進入する人や、誤って侵入する車を防ぐため、竿をホームドアのような強固な可動柵に変更して容易に入れなくし、柵の内側には閉じ込められた場合の非常開ボタンを設けます。また、万が一、閉じ込められて出れなくなっても、既述の障害物検知機の高精度化を併せて行えば、衝突は回避できます。

上記の対策を全て行うことで、踏切の安全性が道路の交差点と同等以上に確保されるため、乗り換え時間短縮のために踏切を積極的に新設すべきです。それにより、歩行者の階段昇降の時間や労力が無くなったり、相対式ホームの鉄道駅であれば列車の発着するホームに合わせてホームのすぐ横にバスを停車させることができるようになります。また、階段にエレベーターが無い駅ではユニバーサル性の面でも大きなメリットがあります。

ラストワンマイルモビリティの改善

速達性改善策の5つ目は、駅・停留所と出発・目的地間の交通手段(ラストワンマイルモビリティ)の改善です。これが無かったり容易に使えず、距離がある場合は、公共交通利用の大きな障害になっています。この対策として、個人の交通手段を停める場所を設けることや、レンタサイクルやシェアカー等を用意すること、公共交通車両に自転車等を積載できるようにすることが一般的に考えられますが、これらラストワンマイルモビリティ関連の改善策について下記4点を提案します。

ラストワンマイルモビリティ関連の改善1点目は、自転車やシニアカー(電動カート)等を駐車できる駐輪場の改善です。バス停や電停には駐輪場が設置されてない場所が多く、設置すればバス等の利用者が増えることが考えられます。土地が広く取れる場所では、4輪車用の駐車場を設置することも有効です。

また、悪天候時は駐輪している間の雨具の置き場に困ることがあります。また、屋根付きの駐輪場でも、雨具を干しておくと風で飛んだり、盗まれたりすることもあるので、駐輪場に風雨を防げる建屋を設け、通気性の良いロッカーを設ける等、きめ細かい対応を行う必要があります。

ラストワンマイルモビリティ関連の改善2点目は、車両の改善です。一般的な自転車は、雨に濡れ、転倒の恐れや荷物があまり積めないという問題があり、シニアカーは転倒の恐れは低いですが最高速度が6km/hと遅く、軽自動車や屋根付きミニカーは、雨に濡れず、転倒せず、荷物も比較的沢山積めますが、免許が必要で購入・維持費が高く、駐車スペースが大きい等の問題があります。これらの長所だけを可能な限り実現するラストワンマイルモビリティを考えると、雨に濡れないための屋根を持ち、転倒防止と積載性のための3輪を持った電動アシスト自転車になると考えられ、様々な提案もされています。このような屋根付き3輪電動アシスト自転車を普及させれば、公共交通の利用促進に繋がると考えられます。

ラストワンマイルモビリティ関連の改善3点目は、レンタル手続きの改善です。カーシェアリングやレンタサイクル等は、利用する前に面倒な登録が必要であるものや、先の予約ができないものが多く、外国人等、初めて訪れた人が気軽かつ確実に使うことができない問題があるため、登録不要でクレジットカード等だけで簡単に予約や決済ができるような仕組みを導入することが必要です。

ラストワンマイルモビリティ関連の改善4点目は、レンタルモビリティの配車と返却の自動運転化です。出発地からレンタルモビリティを使う場合は車両を配送してもらう必要があり、また、目的地まで行って滞在する場合は車両を返却することができない問題があります。この解決策として、昨今開発が進んでいる自動運転技術を使い、使用開始場所や返却場所に無人で移動することが考えられますが、現在(2022年)の技術水準では、場所を限定せずに車や自転車の走行速度で自動運転させることは未だ困難です。しかし、限定したエリアかつ電動車椅子と同等の低速度であれば自動運転の実用化が進んでいるため※14、3輪電動アシスト自転車を、事前に設定したエリア内での配車や返却時に限り低速度で自動運転させるのであれば、実現可能性があると思われます。

また、公共交通自体の対策ではありませんが、公共交通路線から遠い郊外で生活する人を減らし、都市をコンパクト化することも、間接的に公共交通を使った移動の速達性や利便性の向上に繋がることになります。このためには、様々なインフラやサービス(道路、電気、ガス、上下水道、郵便、携帯電話、インターネット、新聞、宅配便、医療・介護の訪問・送迎、教育施設の送迎、公共施設、公共交通等)の使用料や財源となる住民税等を、郊外に住む人ほど高く、都市部ほど安く、段階的に変更していくことも必要だと思います。なぜなら、インフラ利用者1人当たりの運用・維持コストは人口密度が低いほど高いと考えられるため、現状では都市部住民が郊外住民のインフラコストを負担している状態であり、公平な費用負担や、人口減少社会における費用増加抑制のためにも、郊外のインフラコストを高くすることはやむを得ないと言えます。

収益性の改善策

公共交通は、速達性以外の大きな問題点として、収益性の悪さが挙げられます。公共交通を税金で補助することも必要ですが、税金が非効率的に使われることは問題であるので、様々な工夫で収益性を上げることが必要です。これについて、以下4点の改善策を提案します。

交通手段の統合や輸送力の最適化

収益性改善の1点目は、交通手段の統合や輸送力の最適化です。人口が少ない地域では、道路と鉄道等、使用率の低い複数のインフラを維持することは非効率であると共に、道路を廃止することは現実的でないため、鉄道を廃止してバスに転換することは妥当だと考えられます。ただし、最優先は車利用の抑制と公共交通の利用促進であり、それらが十分に行われた想定での乗客数を基準に判断することが必要です。

また、鉄道からバスに転換する際に輸送力不足や所要時間増加、道路渋滞悪化が問題とされていますが、鉄道車両約1.5両分の定員の3連接バスや※15、トラックで開発中の自動追従技術※16、低床車より定員を増やせる高床バス※17等、様々な輸送力増強案が考えられると共に、既述の優先信号や優先レーンにより所要時間短縮等を行ったり、車利用費用を従量化して車利用者を減らせば渋滞も解消できると考えられます。

また、ラッシュ時の輸送需要集中を平準化させることも輸送力不足解消や効率化には有効であり、学校等の始業時間の変更や、時間により運賃を変える変動運賃制導入等の対策も検討の余地があります。

運賃の適正化

収益性改善の2点目は、運賃の適正化です。運賃は、受益者負担による公平性の観点から、運行経費を乗車人数で割って設定することが基本的に妥当だと考えられます。しかし現状では、多くの人が割高な運賃を支払って、一部の乗客の費用を負担している状態になっており、不公平です。これを改善することで、多くの人の運賃を下げられ、利用者が増加する可能性があります。具体的には、短距離乗車時や定期券、学割、子供運賃、閑散区間が挙げられます。

短距離乗車

短距離乗車時は、初乗り運賃が高く、又は均一運賃であることにより、距離に対して割高になっており、また、これによって異なる事業者間で乗り換えをする場合は更に割高になっています。このようになっている理由は、かつて紙の切符や整理券を使用し、人による改札を行っていた時のコストを反映していると共に、均一運賃は車内での現金支払い時の時間短縮のためと推測され、現在主流のICカードによる改札ではほとんど意味が無いと考えられます。公平性確保と乗り換え抵抗低減のためには、ICカード利用者だけでも距離に応じた運賃に変更し、短距離運賃を引き下げることが必要だと考えられます。

定期券

定期券については、元々の目的が切符販売や人による改札の工数削減と推測されるため、大多数がICカードを使っている現状で意味は無く、利用頻度の高い乗客の運賃を割り引く合理性も無く、在宅勤務や在宅授業を一時的に行うと損することもあり、公平性や使い勝手の面からも、ICカード改札がある路線では廃止すべきです。それにより通常の運賃を引き下げることができ、利用頻度が高くない人の利用を増加させることができると考えられます。

学割・子供

学割・子供運賃について、学生や子供の経済的支援は本来行政が行うべきであり、運賃授受の効率化のためにも、学割・子供運賃は廃止して行政からの直接給付等に置き換えたり、子供を無料にしてその分を行政が交通事業者に支払う等の改善を行うべきです。

閑散区間

人口密度の低い地域等、閑散区間においては、乗客1人当たりの運航費用は高額になりますが、現状ではそれが運賃に考慮されていません。実際の1人当たり運航費用を運賃に反映することで運賃は高額になりますが、その区間の公共交通を維持できる可能性は高くなります。

なお、今後の超高齢化、人口減少社会においては、交通以外も含めた様々な社会インフラを現状のまま維持することは全く不可能であり、居住地の集積化(コンパクトシティ)が不可欠となります。それを進めるためにも、また公平性やエコの観点においても、全てのインフラやサービス(交通、道路、電気、水道、ガス、通信、郵便、宅配、ごみ収集、教育、警察、消防、医療等)を提供するために実際に必要な費用を、利用者毎に正しく負担させることはやむを得ないと言えます。もちろん、これが過疎地の切り捨てになるという批判があることは理解しますが、使う人の少ないインフラを維持するために全国民の税金や各種サービスの負担がどんどん増加し、可処分所得が減って少子化も加速することを容認することはできません。

赤字区間の税金での補填

収益性改善の3点目は、赤字区間の税金での補填です。現状では、黒字区間の利益で赤字区間を維持している事業者も多く、黒字区間の乗客にとっては実際の運行経費より割高な運賃を払わされています。本来、赤字の公共交通サービスを提供するのは民間事業者ではなく行政の役割であることから、赤字区間における赤字分は全て税金で賄うべきです。それにより、黒字区間の利益を運賃の引き下げや利便性向上に使うことができ、車からの転換が促進されると考えられます。

商業施設事業者の負担による公共交通の整備

収益性改善の4点目は、商業施設事業者の負担による公共交通の整備義務化です。大規模な商業施設や集積地域では、周辺道路に駐車場待ち渋滞や違法駐車が発生し、都市の交通機能に多大な悪影響を与えている一方、それにより商業施設事業者は多大な利益を得ているため、商業施設事業者の費用負担で周辺の公共交通を整備し、渋滞を抑制する責任があると考えられます。具体的には、最寄りの駅から商業施設等まで無料のバスを巡回させ、併せて駐車料金を高くすることで駐車場待ちの渋滞を抑制させることができます。また、それにより商業施設へのアクセス性や地域内の回遊性が高まって売上の増加も見込まれます。

最大の問題は行政の改善意欲の低さ

以上、公共交通の問題点と対策を提案しましたが、最大の問題点は、行政や公共交通事業者等が、車から公共交通への転換を進める意欲が低く、公共交通の競争力向上の必要性を認識していないことだと思います。以前、私の居住する横浜市の公営バス事業者にバスレーン等の設置を要望したことがありますが、「遅延は発生していないので設置は不要」との回答で、現状以上の時間短縮は必要無いとの認識でした。また、横浜市は商業施設に駐車場附置義務を設けている一方で、ショッピングセンターへの無料シャトルバスは次々に廃止しています※18。このような車使用を前提とした行政の意識を市民が変えさせることがまず必要であると思いますので、読者の皆様も行政や関係者に意見を繰り返し送る等、ご協力いただけたら大変有り難く思います。

参考資料

※1:東洋経済ONLINE 注目浴びる「路面電車」、実は非効率だった!

※2:ウィキベディア トランジットモール

※3:秋田県上小阿仁村 自動運転車両交通安全マップ

※4:東洋経済ONLINE 富山LRT、直通運転で消えた便利な「セルフ乗車」

※5:YouTube Curitiba BRT

※6:日本道路 Plus Stop縁石

※7:YouTube 可変速式の動く歩道(加速編)

※8:日経ビジネス 「エスカレーターで歩くな」と無茶言う人の末路

※9:内閣府 令和3年版交通安全白書

※10:参議院議員木村英子オフィシャルサイト 2021.5.18国土交通委員会質疑『車いす利用者の踏切の安全対策について』

※11:神戸新聞NEXT 切内の歩行者、AIで検知 山陽電気鉄道、2カ所に導入

※12:DIAMOND online 「京急踏切事故」はなぜ起きたのか、運転士の過失以上に重要なこととは

※13:未来へのリポート 小田急の新しい信号・保安装置「D-ATS-P」

※14:株式会社ZMP 歩行速モビリティRAKURO

※15:産経新聞 全長30m、収容人数300人:ボルボがつくった「世界最長級のバス」

※16:経済産業省 高速道路におけるトラックの後続車無人隊列走行技術を実現しました

※17:公益財団法人ハイライフ研究所 都市の鍼治療データベース 166 クリチバのバス・システム


※18:新横浜新聞 ららぽーと横浜への「シャトルバス」終了へ、鴨居駅やIKEAを結ぶ

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