郊外や地方都市に行けば、無料(実質無料を含む)の駐車場がある商業施設や公共施設はごく普通の光景です。施設側にとっても「サービス」の一環として機能してきました。
しかしこの「当たり前」が、実は社会的・法的に見過ごせない問題をはらんでいることは、まだあまり知られていません。
商品価格への上乗せという「不公平な課金」

「無料」とされていても、駐車場の建設費・維持費はかかっているので、実際は商品価格や施設利用料に上乗せされて支払っています。
つまり、駐車場を使わない人も、その費用を間接的に負担させられているのです。これは、受益者負担の原則に反し、明らかな不公平であり、制度的に見過ごせない問題の核心です。
さらにこれは、駐車場利用者だけを不当に優遇することになり、車の利用を促進して公共交通を衰退させる主要因の一つとなっています。
例えば、駐車料金を1時間で100円でも徴収すれば、自転車などで行ける距離では車の利用を躊躇する人は少なくないと思われます。
また、コストの高い立体駐車場での駐車や、長時間滞在する場合などに正当な料金を払えば、燃料費との合算で公共交通運賃の方が安くなることが多くなります。
つまり、多くの関係者が公共交通の維持・発展のために公費支援や様々な努力を行っていることに対し、無料駐車場はそれらを阻害しています。
この不公平な課金構造を是正することが、持続可能な都市・交通の再構築において最優先の課題です。
車依存と公共交通衰退が引き起こす多くの悪影響
車依存とそれによる公共交通衰退は、下記の重大な悪影響を社会に与え続けています。
- 高齢者・子供など移動弱者の足が奪われる
- 渋滞の悪化
- 交通事故や死傷者の増加
- CO₂排出の増加
- 運動不足やストレスによる健康悪化
- 移動のための社会的コストの増加
- 都市の拡散によるインフラコストの増加、中心市街地の衰退
これらすべてを、無料駐車場を含む様々な車優遇制度が引き起こしています。
なお、これら悪影響の詳細については、調べてわかった公共交通の圧倒的メリットを参照ください。
車を優遇している様々な制度については、公共交通復活のためには、車固定費を可能な限り従量制にすべきを参照ください。
法律の趣旨やSDGsにも反する
無料駐車場による車利用促進は、以下の法律や国際的枠組みとも整合しません:
- 都市の低炭素化の促進に関する法律
→ 公共交通機関の利用促進 - 都市再生特別措置法・まちなかウォーカブル推進事業
→ 歩行者中心の都市の形成 - 交通政策基本法
→ 公共交通の確保・利便性向上 - バリアフリー法(高齢者・障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)
→ 高齢者・障害者の移動権確保 - SDGs目標11.2/3.6/13
→ 公共交通へのアクセス拡充、交通事故の削減、気候変動対策
つまり、駐車場を無料で提供している施設事業者は、社会的責任(CSR)やコンプライアンスに反していると言っても過言ではありません。
商業施設の採算性にも悪影響
無料駐車場の提供による車依存は、施設経営上の観点からも問題をはらんでいます:
- 維持費のかかる巨大な駐車場は施設の収益を圧迫
- 渋滞により来客数や周辺人口が頭打ちに
- 隣接施設間の移動が困難で、地域回遊性も悪化
これらは短期的な集客以上に長期的な損失を生む要因となります。
解決策:課金の透明化による分離徴収方式へ
単なる「有料化」ではなく、料金の分離徴収へ
単純に無料をやめて有料化するだけでは、消費者の反発は避けられません。
しかし、実際には商品価格や設備使用料などに「内包されている」だけなので、
駐車料金を分離徴収し、その分、商品価格などを値下げして明示すれば、消費者の平均的な負担は増えず、反発は少ないと考えられます。
小規模店舗への配慮
徴収インフラがない場合でも、「駐車場を利用しない人への値引き」という仕組みであれば容易に導入可能です。既に実施している施設もあります。
つまり、方法は問わず、
駐車場利用者と非利用者に合理的な費用の差を設ける
ということを義務化すべきです。
なお、人口密度が低い地域では土地代が極めて安いことにより駐車場費用がほぼ無くなるので、実質的に効果があるのは、ある程度以上の人口集積地域に限られます。
過疎地において車から公共交通への転換を促すには、車の自動車税や重量税、自動車保険など、定額の維持費用を走行距離基準の従量制に変更することが必要だと考えられます。
大規模施設は渋滞対策も義務付ける
来客数が多い大規模施設は、周辺地域に渋滞や交通事故の悪影響を及ぼしているため、それを軽減するための以下の対応も義務付けるべきです:
- 公共交通でのアクセス確保
→ 路線バスの乗り入れやシャトルバス運行など(バス優先レーン、優先信号の設置も) - 利便性の良い駐輪場の設置
→ 入口近くに十分な容量を設置(車線を減らしたり、歩道の有効活用も) - 渋滞解消を目的とした駐車料金調整
→ 渋滞が無くなるレベルまで料金を上げる
これらの対策により、車から公共交通や自転車への転換が促進され、社会への多くの悪影響が軽減されます。
終わりに:駐車場「無料神話」からの脱却を
無料駐車場は「便利さ」という一点では歓迎されていますが、その代償として、多くの深刻な社会的悪影響を生み出しており、提供する事業者はコンプライアンス的に問題があると言わざるを得ません。
「公平な費用負担」と「持続可能な交通手段」の実現に向け、駐車料金のあり方を見直すときです。
自由な経済活動は尊重されるべきですが、社会に悪影響を与えていることについては、レジ袋の有料化など他の様々な規制と同様、駐車料金についても規制を行うべきです。
事業者もコンプライアンス上の問題を指摘されれば、対応せざるを得なくなります。
なお、かつて筆者が参加していた団体では、無料駐車場の見直しについて要望書を下記の関連団体に送付しています。
国交省と日本百貨店協会からは前向きな回答を得られており、多くの要望があれば実現可能性が高まると思われますので、読者の皆様からも送付いただけると幸いです。
駐車場関連団体:
国土交通省、経団連、経済同友会、日本商工会議所、ショッピングセンター協会、日本百貨店協会(電話・手紙のみ)