近年、SNSやYouTubeの閲覧数稼ぎや、政治家の支持獲得を目的に、表面的なイメージに基づく誤情報やデマの拡散が非常に増えています。その結果、多くの人が騙され、選挙結果や政策が不適切な方向へ進み、後に後悔したり、分断が深まるということも多く見られます。例として、反道徳的な主張を掲げる政党や政治家の台頭、イギリスのEU離脱による凋落などがあります。
昨今、大きな議論になっているガソリン減税や走行距離税をめぐっても、以下の多くの誤情報が広がっています。本記事では、それらがなぜ誤りなのかを事実に基づいて解説します。それにより、冷静で建設的な議論につなげることを目的としています。
「ガソリン代負担が増えている」のは本当?
「ガソリン価格が高騰し、家計負担が増えている」という声が多く聞かれますが、本当でしょうか?
確かに近年はガソリン価格が上昇していますが、以下の事実があります。
- ガソリン価格は1982年にはすでに177円に到達しており、その後は上下を繰り返しながら長期的にはほぼ横ばい
- 自動車の燃費は30年間で3倍以上向上
- 賃金や公共交通運賃は継続的に上昇



これらの事実から、所得に対するガソリン代の負担割合は、増えるどころか大きく減少しているはずです。
しかし、大幅な燃費向上に比べて日本全体の燃料消費量は減少幅が少ないという事実もあります。この理由は、ガソリン代の負担が小さいために、燃費の悪い大型の車を選ぶ人が増えていることが一因と考えられます。実際に、車両重量は年々増え続けています。
つまり、車ユーザー自身がガソリン代の負担を増やしているのです。
また、ガソリン価格が安いために、ハイブリッドなどの低燃費技術のコストをガソリン代節約で回収できず、燃費の悪い従来エンジン車を選ぶ人が未だ多くいます。実際、電動車の新車販売比率は半数程度です(燃費向上が微小なマイルドハイブリッドを含めても)。さらには、モデルチェンジでハイブリッドを廃止するなど、燃費向上を止めている車種も多くあります。
このことから、ガソリン価格が安いことが、ユーザーやメーカーのCO2削減動機を低下させ、技術開発も抑制することになっています。
また、国際的にも、日本のガソリン価格は極めて安い水準で、OECD加盟国35か国では下から2番目です。欧州諸国などでは炭素税率が日本の数十倍に達し(その分、教育支援や社会保障サービスが充実)、1リッターあたり300円前後という国も少なくありません。
これらのことから、ガソリン代負担は長期的・相対的に下がっており、多くの人は負担軽減を求めていないのです。
これらについての詳細は、下記記事もご参照ください。
「ガソリン減税は低所得者に恩恵」は本当?
物価高対策として、ガソリンの暫定税率廃止や食料品に対する消費税の減税論が支持を得ています。その根拠として、ガソリン代や食料品代の所得に対する割合が低所得者ほど高いことから、その減税も「低所得者ほど恩恵が大きい」と一部の専門家が言っているためです。
所得に対する割合が高いと、本当に恩恵が大きいのでしょうか?
低所得者はガソリンや食料品の消費額が少ないので、税額も元々少なく、減税される金額も当然少ないです。
所得に対する割合は大きいので、気分的には大きいのでしょうが…
このように、「割合」と「金額」の意味を多くの人が混同し、一部専門家やそれを利用する政治家に騙されているのです。
つまり、ガソリン税や消費税の減税が低所得者の方が恩恵が大きいというのは、完全に誤りです。
これらを減税すれば、たくさん消費している高所得者がたくさん得をするので、税金の無駄遣いです。
本当に困っている低所得者や子育て世帯だけに、所得税減税や手当増額を十分な額で行うべきです。
これついての詳細は、下記を参照ください。
「車関連の税は高すぎる」のは本当?
「日本の車関連の税は高すぎる」という批判も広く見られます。確かに、ガソリン暫定税率や消費税、自動車税や環境性能割(旧取得税)など多くの税が存在し、一見、負担が大きいイメージがあります。
これらの税収総額は約9兆円/年で、道路の建設・維持費の6.5兆円/年を上回りますが、それ以外にも、交通警察費や環境対策、公共交通への補助など、車がもたらす悪影響の対策に様々な公費が支出されています。
さらに、公費で支出している以外にも、車は社会に対して膨大な悪影響(外部不経済)をもたらしています。
具体的には、交通事故による社会的損害、渋滞や運転による時間損失、大気汚染や地球温暖化などの環境負荷、移動困難者の増加、資源浪費、道路や駐車場による土地の無駄な占有、無料駐車場の建設・維持費、都市の拡散によるインフラコスト増大、都市中心部の衰退、運動不足による健康被害など、様々あります。
これら外部不経済の総額を見積もることは困難ですが、例えば、
- 車の交通事故死亡率は鉄道の400倍で、それに伴う損害額は約10兆円/年
- 乗用車による輸送人数は鉄道の40分の1により渋滞が常態化し、経済損失は約12兆円/年
この二つの損失だけでも、車関連税収の2倍以上になります。
つまり、車が社会に与える悪影響に対して税負担が圧倒的に不足していると言えます。これは、車の使用に直接関係していない人が、車が引き起こす損失の多くを負担させられているという不公平な状態なのです。なお、車に対する鉄道のメリットについては、下記を参照ください。
国際比較でも、日本の車関連税総額はOECD諸国の中で低水準に位置しています。特に従量部分の割合が低く、「定額使い放題」に近いことが、公共交通の競争力を奪う大きな要因となっています。
車関連税の国際比較については、以下の記事を参照ください。
以上のことから、車に対する税は少な過ぎるのです。
車の税(特に従量部分)を増やし、その分、他の税や社会保険料を減らせば、社会が良い方向へ向かうのです。
「走行距離税導入は地方の人の負担が増える」は本当?
走行距離税を「増税」と捉える声は少なくありません。
しかし、発端はEVの普及によりガソリン税収が減少する対策であり、EVにも相応に負担させるためです。このため、ガソリン税の一部置き換えや保有税の従量化が想定され、つまり、増税ではないと推測されます。
定額の保有税(自動車税、重量税)を走行距離基準に置き換える場合は、地方は走行距離が多いために確かに負担が増えます。
しかし筆者の試算(下記リンク)では、地方の負担は車費用全体のわずか0.3%しか増加しません。そして、増加しても都会の移動費用総額より少ないのです。
さらに、地方で多い短距離走行のセカンドカーは、費用負担が確実に減るのです。
つまり、走行距離税の導入は、増税ではなく、地方の負担もほとんど変わらず、減る可能性もあるのです。
「地方の人の方が貧乏」は本当?
「地方は都会より賃金が低いので、車の費用負担を減らすべきだ」という意見が多く見られます。つまり、「地方の方が貧乏」という前提ですが、これは本当でしょうか?
地方の方が賃金が平均的に低いことは事実です。しかし、住居費や食費も安いため、実質的な経済的余裕は地方の方が大きいとする分析が多くあり、地方の方が貧乏というのは事実に反します。
移動関連の費用総額においても、地方は車の保有台数が多い一方で、都会は自宅駐車場代(土地価格や賃貸料金)が高く、通勤距離が長いため公共交通運賃も高額になるため、トータルでは都会の方が高額になる可能性が高いと言えます。
さらに都会は通勤時間が長く、時間的損失も大きいと言われています。
地方で大きな家と多くの車を所有して余裕を持って暮らす人が多いと感じるのは、筆者だけではないと思います。
「地方には公共交通が無いから、車の費用を上げては困る」は本当?
地方の多くが無いと生活できない「車社会」になっているのは事実です。しかし、このまま「車社会」を続けると、少子高齢化の進展によって移動困難者の増加や過疎化、それによる経済の衰退が加速して深刻な事態に陥ることは確実です。
公共交通が衰退して「車社会」になってしまった主因は、車の費用負担が大きく下がったことです。既述の通り、公共交通運賃は物価と共に上がっているのにガソリン代負担は減少しています。高度成長期においては車両価格も賃金に対して大幅に安くなりました。
それによって車の交通量が増え道路整備が促進されて利便性も向上し、公共交通は利用者が減って利便性低下が低下し、ますます車依存を加速させたのです。
よって、車社会から脱却して公共交通主体の持続可能な社会に転換させるには、車の費用を上げるしか解はありません。特に、現状は定額である費用を可能な限り従量制に変更して、車を使用する際の費用を上げる、つまり、「車を使わない際の費用を下げる」ことが効果的です。これにより、公共交通を使った方が安いことが多くなって競争力が上がり、路線の新設や増便が可能になります。
具体的には、定額の自動車税や重量税、保険を1km刻みの走行距離基準に変更したり、商品価格などに含まれている駐車料金を分離徴収することです。これついての詳細は、下記を参照ください。
つまり、地方には公共交通が無いからこそ、車の使用時の費用を上げて(使用しない時を下げて)公共交通を復活させることが、社会を持続させるために必要なのです。
「走行距離税は距離の把握が困難」は本当?
走行距離税の走行距離の把握において、車検時に確認しているオドメーター(距離計)の数値を利用することが最も容易ですが、「オドメーターは改ざんの恐れがある」との意見があります。それにより、不正のしにくいGPS車載器が必要でコストがかかることが、走行距離税導入のハードルの1つとされています。これは、本当でしょうか?
確かにオドメーターの改ざんは現在もありますが、ごく少数です。
その少数の損害が、走行距離税による多大な社会的メリットを諦める理由になり得るのでしょうか?
他の税でも脱税はあり、それを理由に制度を廃止することはありません。
商店で万引きがあるからといって、客は自由に商品を手に取ることができます。
つまり、オドメーターの改ざんによる損害に対して、走行距離税で得られるメリットの方が圧倒的に大きいため、走行距離税を導入できない理由にはならないのです。
「トラック輸送コストが上昇したら困る」は本当?
走行距離税や燃料価格上昇でトラックの費用負担が増えれば、輸送コストが上がり、物価も上がるので困る、逆に燃料価格を下げれば物価が下がって車に乗らない人にも恩恵があると減税派の人は言っています。
ここで、「物価上昇=悪」と盲目的に見なしていますが、本当にそうでしょうか?
走行距離税を税収中立で導入するのであれば、乗用車ユーザーの多くは減税されます。走行距離が少ないユーザーは大きく負担が減ります。これにより物価上昇と相殺され、平均的には経済的余裕度は変わりません。
逆に、燃料価格を減税して下げれば、減税の財源を他の税や社会保険料を増やしてまかなう必要があり、やはり平均的な経済的余裕度は変わりません。
つまり、税による価格調整は、増税分がどこかに消えてしまうわけでも、減税分が天から降って来るわけでもなく、一定の国家予算の中でやりくりするので、平均的な経済的余裕は変わらないのです。
円安による物価上昇についても、円安によって土地や金融資産の価値が上がったり輸出品が売れて得している人がたくさんいて、国全体としては儲かっています。つまり、増収が高所得者に偏っているため、それを是正するために、税収増を中低所得者だけに分配すれば良いのです。
大事なことは、貴重な税収を効率的に使う、つまり本当に困っている人だけに十分な支援をすることと、社会へ悪影響を及ぼしている活動に対して悪影響分に相当するコストを税で負わせ、悪影響の衰退手段に転換させることです。
なおなお、トラックによる物流コストや物価が下がることは消費を刺激し、経済発展に繋がるという意見もあります。
しかし、減税による消費刺激は一時的であり、いずれ他の税や社会保険料が上がって元に戻ります。
むしろ、鉄道などに比べて社会への悪影響が圧倒的に大きいトラックの使用を促進することは、物流の効率化や脱炭素化への動機を失わせ、悪影響による膨大なコストを長期的に社会に負わせることになります。
また、物価上昇を抑えることは賃金上昇を抑えることにも繋がり、減税による財政悪化によって円安圧力も強まることもあり、輸入品の価格が相対的にさらに高くなって、ますます貧乏な国になってしまいます。
例えば、大型トラックの道路損傷は乗用車の数千倍、鉄道と比較するとCO2排出量は10倍、必要な運転手の数は65倍です。この事実を踏まえれば、走行距離税などで長距離トラックを増税することは、本来あるべき原因者負担への是正だと言えます。
そして、トラックへの増税は、共同配送などによる輸送効率化や、社会への悪影響やコストが圧倒的に小さい鉄道貨物などへの転換を促進させることになり、結果的に国際競争力や賃金の上昇に繋がります。
つまり、トラック輸送コストの上昇は社会を正しい方向に向かわせるのです。
実際に、物価が日本の数倍で、トラック輸送コストも大幅に高いと言われているアメリカや欧州諸国でも、日本より経済が好調な国が多くあります。
まとめ ― 誤情報に流されないために
ガソリン減税や走行距離税をめぐる議論には、「負担が増えている」「地方が損をする」といった、直観的にイメージしやすい言葉で不安を煽ることが繰り返し行われ、それに多く人が騙されています。しかし、実際に冷静に事実を調べれば、それらは事実と違っていたり、一部だけを切り取った説明だったりすることが多いのです。
特に、「増税」や「物価高」が必ずしも「悪」ではありません。
社会に悪影響が大きい活動に増税すると共に、その税収を困っている人に回せば、社会は良い方向に向かいます。
物価が上がって賃金も上がれば、輸入品の価格が相対的に下がって購買力が上がると共に、経済が活性化したり、海外への投資や旅行もしやすくなります。つまり、現在の貧乏な国から、リッチな国に戻るのです。
目の前のことの短絡的なイメージに流されず、社会全体を広く見て、事実に基づいて長期的視点で冷静に議論することによって、より良い社会を実現することができるのです。







