制度が多すぎて疲弊する日本社会――本当に必要なのは“減らす”改革だ

制度疲れの日本社会に必要なのは「本質から見直す」ルールの再設計 政治

◆ はじめに:ルールや制度が、あなたの時間と人生を奪っている?

「給付金はどうやって申請するの?」「高校無償化はいつから?」「控除って年収いくらまで?」「消費税は減税されるの?」「年収の壁を避けるには?」「厚生年金と基礎年金の違いは?」

私たちは、日々このように様々な制度ことを気にかけ、“制度疲れ”を感じながら暮らしています。
複雑な制度は、一見すると私たちを助けてくれているようで、実は非常に多くの人の莫大な時間・労力・コスト・思考力を奪い、社会全体の効率と幸福度を下げているのです。

しかも、こうした制度は毎年のように新設・改定され、「制度のための制度」が生まれています。
これでは、行政も国民も対応に疲れ果て、制度そのものが本来の目的を果たせないだけでなく、日本の賃金や国際競争力が停滞している一因だと考えられます。


なぜここまで制度は複雑になったのか?──「本質を見失った対症療法」

多くの制度やルールは、“問題が起きたから、とりあえず目先の対策を立てる”という思考で作られてきました。
これは医療に例えるなら、「根本原因を治療せず、症状だけを抑える薬をどんどん追加していく」のと同じです。

一時的には効果があるように見えても、根本的な対策がないまま制度が積み重なり、多数の弊害が出て、いずれ破綻します。

制度乱立の例:

  • 経済的弱者を救う制度だけで、生活保護・児童手当・年金・医療費控除・障害者支援・介護保険・一時給付金など多数
  • そのそれぞれに、適用条件確認・申請書や証明書類入手・申請手続き・問い合わせ・金銭徴収・金銭給付・定期的な連絡書類授受・条件変更時の手続き・制度作成・制度改変対応等々。。。
  • 制度の境界で「対象外」となってしまったり、制度を知らずに申請できない人も多い
  • 所得制限により、あえて労働を抑えることも発生している

結果として、本来救うべき人に届かず労働意欲が低下し格差が拡大するという逆効果すら生まれています。


制度が複雑・対症療法的であることの“6つの害悪”

  1. 対応にかかる時間と労力が膨大
     調査・申請・手続き・問い合わせ・定期報告・更新などの付加価値を生まない作業のために、行政も企業も国民も無駄な作業を強いられている。
  2. 想定外の人や情報弱者が排除される
     給食費無償化は不登校児に意味がない。補助金は申請できる人しか得られない。
  3. より良い選択肢や創意工夫をつぶしてしまう
     EV補助金により、CO₂削減により効果的な鉄道・自転車の利用が減ったり、他の技術開発が抑制される。
  4. 無駄や他への悪影響が大きい
     EVに替えると車の使用頻度が低い人にも補助金が出る。軽自動車の排気量制限で燃費が悪化。
  5. 分断と不安を生む
     ルール順守者と違反者の対立や、救済制度を知らないことによる不満や不安が生まれている。
  6. 癒着や既得権益を助長する
     制度が複雑なほど業界と政治による交渉の余地が大きいため、癒着が起こりやすい。

解決のカギは「本質思考」と「ゼロベース設計」

自動車のエンジンやハイブリッドシステムの制御開発に長年従事していた筆者は、「複雑化の果てに制度が機能不全に陥る」現象を体感しています。
多数の部品を制御するルールを場当たり的に増やし続けた結果、制御は破綻寸前に。そこから、原理原則に立ち返ってルールを作り直す動きが業界全体で起きたことで、現在の環境性、安全性、信頼性の高い自動車が低コストで実現できるようになった歴史があります。

社会のルールも同じです。
既存の制度に手を加えるより、

  • 「何が本質的な目的・原因なのか?」を見極め、
  • ゼロベースで、「あるべき姿」を明確にし、
  • 原理・原則に基づいて、
  • 制御対象(人間)に直接的に作用するシンプルな方法で、

ルールを再設計することで、最も効果的で持続可能な制度が実現できます。

原理原則とは?

制度設計において従うべき原理原則とは、主に下記のことです。

  • 公平性:
     広く恩恵があるものは、みんな同じ負担
     全ての人は平等・対等
     社会への悪影響の量に応じた負担(従量制
  • 弱者救済:
     困難な状況にある人には、十分な支援自動的
  • 効率性:
     負担は最小に(経済的・肉体的・精神的・時間的)、効果は最大
     自由競争創意工夫が社会発展の原動力
  • 社会倫理の尊重:
     啓蒙より経済的インセンティブで行動制御
     重大事項には罰則で
  • 普遍性・汎用性:
     究極も含むありとあらゆる条件にそのまま適用できる
  • 受容性:多くの人に受け入れられ易い

本質から考え直した制度の改善例

少子化対策──複雑な無償・給付制度を「一括支給」に

【現状】
少ない支援額により「子持ちは損」と感じる人が多いだけでなく、給食費補助、児童手当、保育無償化、育児休業給付金など、制度がバラバラで手続きが煩雑。不登校児や孤児への抜け漏れや格差、産後うつ、育児放棄の一因にも?

【改善案】
本質的な対策は「子持ちが損」にならないようにすること。
子供は将来の社会を維持・発展させる社会全体の資本・財産である事実から公平性を考慮すれば、
養育にかかるすべての平均的費用(家庭での労働対価も)を、すべての子どもに対して一括で国が給付した上で、保護者が個別に必要なサービスに支払う。
給付手続きは出生届以降不要とし、シンプルかつ柔軟性の高い制度に。


CO₂排出削減──補助金や減税等ではなく「炭素税」に一本化

【現状】
省エネ家電・EV・再エネなどの補助制度が乱立費用対効果の少ないものや、新技術開発の阻害も。

【改善案】
削減方法は未知のものも含めて無限にあること、個々の状況に応じて最適解は異なること、すべての物の製造過程やサービスにおけるエコ度を把握・表記することは不可能であるという事実と、効果を最大化・コストを最小化する目的を認識すれば、
すべての物の炭素量に応じて輸入や採掘時に課税する炭素税を、他の税(消費税等)から置き換えることで大きく増やす。
これにより、手段を問わず、CO₂を多く削減した人が多く得をする制度になり、大多数の人がCO2削減(つまりコスト削減)の努力と工夫を行うようになります。

これについての詳細は下記に記載していますので、ご参照ください。


公共インフラ維持──「使った分だけ払う」従量課金へ

【現状】
インフラの維持コストは場所によって大きく異なるのに使用料が同一であるため、過疎地での非効率状態が放置されている。交通においては、公共交通より圧倒的に非効率な自家用車の固定費割合が大きく使い放題に近いため、本来優先的に使われるべき公共交通が使われない。

【改善案】
インフラ維持の本質は効率化であり、高効率なものへ利用者を誘導する制度にすることが必要。
公平性の観点からも、インフラ利用料を実際の維持コストに応じて設定。
自家用車は固定費(税や保険料、商品価格等に含まれている施設駐車場料金等)を、実際のコストや社会への悪影響度合いに応じて従量制(走行距離や駐車時間基準)に変更する。
使う人がその悪影響分を支払うことで、高効率な(安い)都市部や公共交通へ利用者が移る。

公共交通衰退対策についての詳細はこちら↓に記載していますので、ご参照ください。


おわりに:制度がシンプルな社会こそ、幸福度が高くなる

制度の数が多ければ、社会は安心になるわけではありません。
むしろ、制度が多く、複雑であることが、社会の停滞や不安感、分断の大きな原因です。

私たちが本当に求めているのは、“公平で誰も取り残さないシンプルな仕組み”ではないでしょうか。

これからの時代に必要なのは、「制度を増やすこと」ではなく、「制度をゼロから見直して減らすこと」です。

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