◆ はじめに:ルールや制度が、あなたの時間と人生を奪っている?
「給付金はどうやって申請するの?」「年収の壁って何?」「物価高で困る!」「年金はいつからいくらもらえるの?」「不登校児への支援は何かある?」
私たちは、このように様々な制度に対して、様々な手続をしたり、不明点や得する方法を検討したり、制度改革について議論するなど、日々多大な労力を費やしています。また、税金が高い、支援が少ないなどの不満を多くの人が持っていたり、一部の弱者が取り残されていたりします。
しかし、現在施行されている様々な制度は、長い時間の試行錯誤を経て複雑に作り上げられ、人々の幸福を目的に、改善されてきたはずです。それなのに、複雑さが多くの人の莫大な時間・労力・コストを奪っていると共に、いつまで経ってもも不完全なままで毎年改定され続けており、結果的に社会全体の効率と幸福度を下げているのです。
そして、制度が本来の目的を果たせないだけでなく、行政も国民もその対応に労力を取られていることで、賃金や国際競争力が停滞している一因にもなっていると考えられます。
なぜ制度は複雑で不完全なのか?──「本質を見失った対症療法」
多くの制度やルールは、“問題が起きたから、とりあえず目先の対策を立てる”という思考で作られてきました。
これにより、目先の問題には対処できても、根本的な対策を行わないまま制度が積み重なって複雑化し、膨大な矛盾や弊害が発生します。
制度複雑化・対症療法の例:
- 経済的弱者支援として、生活保護・児童手当・年金・医療費控除・障害者手当・健康保険・介護保険・一時給付金・エネルギー価格補助・お米券・ガソリン減税・消費税減税・就学支援金など
- 少子化対策(子育て支援)として、児童手当・保育料減免・学校授業料減免・給食無償化・産休・育児休業・医療費減免・出産一時金・奨学金・所得税扶養控除・交通機関や施設料金割引など
- CO2削減策として、炭素税・排出量取引・EV補助金・設備投資補助金・太陽光パネル義務化・エコカー減税・省エネ住宅補助金・再エネ設備補助金・再エネ固定価格買取制度・省エネ家電補助金など
制度が複雑・対症療法的であることの“6つの害悪”
- 対応にかかる時間と労力が膨大
それぞれの制度に対して、適用条件確認・申請書や証明書類入手・申請手続き・問い合わせ・金銭徴収・金銭給付・定期的な連絡書類授受・条件変更時の手続き・制度検討・制度改変対応等々の付加価値を生まない作業が発生し、行政も企業も国民も対応を強いられている。 - 想定外の人や情報弱者が取り残される
給食費無償化は不登校児に意味がない。補助金は申請できる能力がある人しか得られない。多数の子育て支援制度があっても未婚者には伝わらない。 - より良い選択肢や創意工夫をつぶし、効果が減少
EV補助金により、CO₂削減により効果的な鉄道・自転車の利用が減ったり、他の技術開発が抑制される。 - 無駄や他への悪影響
EV補助金は使用頻度が低い人にも出る。軽自動車の排気量制限により燃費悪化やコスト増加。支援の所得制限により労働抑制。 - 分断と不安を生む
恩恵が多い人と少ない人の対立や、貧困者など弱者の不満や不安が増加し、治安の悪化、自殺者の増加も。 - 不正が発生しやすい
制度が複雑なほど、制度の抜け道が増え、また業界と政府の交渉の余地が増え、不正(節税という名の脱税、癒着など)が起こりやすい。
解決のカギは「本質思考」と「ゼロベース設計」
自動車のエンジンやハイブリッドシステムの制御プログラム開発に長年従事していた筆者は、「対処療法による複雑化の果てに制度が機能不全に陥る」現象を体感しています。
多数の部品を制御するルールを場当たり的に増やし続けた結果、人間が理解不能なレベルに複雑化して破綻寸前に。そこから、原理原則に立ち返ってゼロからルールを作り直す動きが業界全体で起きたことで、現在の環境性、安全性、信頼性の高い自動車が低コストで実現できるようになった歴史があります。
この経験から体得した最適な制度設計の流れは、以下の手順になります。
- 問題の本質的な原因を見極める:現場・現物を良く見て、なぜ?を繰り返す
- 実現したい本質的な目的・理想の状態を明確化する
- 目的実現に直接的に作用する「制度のあるべき姿」を可能な限りシンプルに設計する
- あるべき姿を、現実に合わせて修正する
また、制度設計において留意すべきことは、
- ゼロベース:現状の制度や常識は無視して
- 原理・原則に基づく:制御対象(部品、物質、人間)の特性に従う
- 普遍性・汎用性:究極も含むあらゆる条件で成立するか
- 広い目で:現実解設計には手段を広く検討
- 定量的に:信頼性の高い事実・数値に基づいて 「良い悪い」や絶対値ではなく、程度・割合で
- 総合的に:各手段の長所短所を優先順位を付けて比較 短所の対策も検討
- 労力・コストの最小化、効果の最大化:ルール数の最小化、対応自動化
制度設計における原理原則とは?
自動車の制御は自動車部品や空気、燃料、電気という物理現象を制御するものであり、物理の法則に基づいてルールを設計します。
一方、制度設計は人間を制御するものであり、下記に示す人間の一般的社会倫理や特性に基づく必要があります。
- 幸福最大化:
制度を作る目的は、幸福度とそれを感じる人数を最大化すること
ごく少数の違法行為防止よりも大多数の人の利益を優先 - 公平性:
広く恩恵があるものは、みんな同じ負担
全ての人は平等・対等
社会への悪影響(将来も含む)の程度に応じた負担(従量制) - 弱者救済:
困難な状況にある人には十分な支援を
情報弱者も取り残さない - 効率性:
自由競争・創意工夫が社会発展の原動力 - 行動制御方法:
啓蒙より経済的インセンティブ
重大事項には規制・罰則
本質から考え直した制度の改善例
少子化対策──複雑な無償・給付制度を「国による全額一括管理」に
【現状】
少ない支援額や育児の保護者への依存により「子持ちは損」と感じる人が多い。給食費補助、児童手当、保育無償化、育児休業給付金など、多数の制度が乱立して理解不能・手続き労力も膨大。不登校児や孤児への支援漏れや格差、産後うつ、育児放棄も問題になっている。
【問題の本質的な原因】
少子化の本質的な原因は、子供を持つことが損で大変という「イメージ」を若者が抱いていること。つまり、単に支援額を増やすだけではなく、若者が感じるイメージを変えられる対策が必要。
【実現したい本質的な目的・理想の状態】
子供を持つことが損でも大変でもないというイメージを多くの若者が持っている状態。
【考慮すべき事実】
- 子供1人を育て上げる総費用より、成人後の社会への貢献総額の方が圧倒的に大きい
→ 子供を増やした方が社会全体として得 - 子供がいない人も、経済発展や社会保障として多大な恩恵を受ける
→ 国が育てるのが公平 - 親や企業が労力・コストを負担すると、不公平感が出る(育児休業など)
→ 国が育てるのが公平 - 単に支援額を増やしても、出生率向上効果が低い
→ 当事者の若者にメッセージが届いていない? - 望まれない妊娠、恵まれない子供、育児が困難な親も多くいる(貧困、障害…) 治安にも悪影響
→ 弱者への十分な救済が必要
【制度のあるべき姿】
「子育ては全て国が責任を持つ」という、シンプルで理解しやすい原則を掲げることで、若者のイメージを変えると共に、誰も取り残さず、公平感の高い制度になる。
具体的には、国が子供一人一人に十分な子育て予算枠を設け、子育てに関わる全ての人(親も含む)がその予算から対価を受け取る。
これにより、子育て専業の親であっても報酬を得られ、親がいない子供も他の子供と同等の養育が可能となります。
学校もこの予算枠から費用を賄い、不登校児はその分を親などの監護者が受け取れます。
育児休業中もこの予算枠から報酬を得、企業の負担は不要となるため、休業が取りやすくなります。
財源は増税にならざるを得ませんが、国全体での子育て費用は不変です(制度変更前後で)。つまり、現在子育て費用・労力を多く負担している人は負担がトータルでは減り、将来の収入源である子供の養育を国民全体で負担するという公平性が高まることになります。
CO₂排出削減──補助金や減税等ではなく「炭素税」に一本化
【現状】
省エネ家電・EV・再エネなどの補助制度や規制が乱立。費用対効果の少ないものや、新技術開発の阻害も。
【問題の本質的な原因】
CO2削減は技術開発の進展と全国民の行動変容の両方が必要であり、そのためには創意工夫による自由競争と経済的なインセンティブが不可欠です。
しかし、削減方法を国が限定して優遇や規制することは創意工夫・自由競争を阻害し、消費者の行動変容に対するインセンティブがほとんど無い状態では大きな効果は望めません。
つまり、資本主義経済の原理を無視した制度であることが本質的な原因です。
【実現したい本質的な目的・理想の状態】
全国民による活発な技術開発と自発的行動変容が持続する状態。
【制度のあるべき姿】
全国民が個々の状況に適した方法で行動変容を起こさせるには、手段を問わずCO2削減量に対する大きな経済的インセンティブが必要。
現実的には、CO2の元である炭素の含有量に応じて化石燃料の輸入や採掘時に課税する炭素税。
国民の税負担を増やす必要はないため、他の税(消費税等)から転換することが妥当。
これにより、CO₂を多く削減した人が多く得をする制度になり、ほぼ全ての国民がCO2削減(≒コスト削減)のために多種多様な努力と工夫を自発的に行うようになり、最小のコスト・労力でCO2が削減されます。それにより、環境技術の国際競争力も増加します。
これについての詳細は下記に記載していますので、ご参照ください。
公共インフラ維持──「使った分だけ払う」従量課金へ
【現状】
インフラの老朽化が進んでいるが、予算不足により維持が困難になっています。また、地方の公共交通も赤字や運転手不足により衰退が進んでおり、交通弱者の移動が困難になっています。
【問題の本質的な原因】
人口減少社会において必要なインフラを維持するためには効率化が不可欠であり、高効率な状態に利用者を誘導することが必要です。しかし、現状は非効率な場所・条件(山間の過疎地など)であっても使用料が同一であり、効率化へのインセンティブが働かない状態になっていることが本質的な原因です。
交通においても、公共交通より圧倒的に非効率な自家用車の費用が定額使い放題に近いことが、高効率な公共交通が使われず、利益が出ず、運転手の待遇も上げられない原因になっています。
【実現したい本質的な目的・理想の状態】
全ての国民にとって必要なインフラが最小コストで提供される状態
【制度のあるべき姿】
高効率な状態に利用者を誘導するには、経済的インセンティブが必要。
公平性の観点からも、インフラ利用料を実際の維持コストに応じて設定(都市部は安く、過疎地は高く)。
自家用車についても、固定費(税や保険料、商品価格等に含まれている施設駐車場料金等)を、実際のコストや社会への悪影響度合いに応じた従量制(走行距離や駐車時間基準)に。
利用する人がその悪影響分を公正に負担することで、高効率な(安い)都市部や公共交通へ利用者が移る。
公共交通衰退対策についての詳細はこちら↓に記載していますので、ご参照ください。
おわりに:制度がシンプルな社会こそ、幸福度が高くなる
制度の数が多ければ、社会は安心になるわけではありません。
むしろ、制度が多く、複雑であることが、社会の停滞や不安感、分断の大きな原因です。
私たちが本当に求めているのは、“公平で誰も取り残さないシンプルな仕組み”ではないでしょうか。
これからの時代に必要なのは、「制度を増やすこと」ではなく、「制度をゼロから見直して減らすこと」です。



